研究テーマ

おいしい食事

どんなに素晴らしいご馳走でも、汚れたテーブルの上に出されたら、あまりおいしいとは感じられません。それは、おいしさが単に味覚だけのことではないから。「おいしい」という感じは、どこから来るものなのでしょう? 今回は、おいしい食事について考えてみましょう。

おいしさは五感から

おいしさを追求するということは、単に味だけを追求するということではありません。人間は、「見る・聞く・触る・味わう・嗅ぐ」という五感を働かせて、身の周りの世界を認識します。「おいしい」かどうかも、見た目の美しさ、香り、舌触り、味と、五感のすべてを使って総合的に判断しているのです。どんな器に盛られ、どんな場所で食べるかも、大きな要素となるでしょう。
おいしいと感じる、この微妙なバランスを成立させるには、お互いの感覚を損なわないように、それぞれが控えめであるほうが良さそうです。それは、大きな音や雑音の中では、微妙な音の変化になかなか気付けないことにも似ています。静寂の中に居て、はじめて、かすかな風の音や鳥の声に気付くことができるのです。

おいしさの裏にあるもの

もうひとつ、おいしさを決める大切な要素になるのが、ダシやスープの存在。出来上がってしまえば目には見えなくなるのですが、ここを丁寧につくることが、仕上がりの味を左右します。ここでも、「控えめ」が肝心です。だしやスープの味が勝ちすぎても、素材の味を殺してしまいます。だしやスープは、あくまでも、素材の味を引き立てるための裏方なのです。特に日本料理の繊細で深い味わいは、手間暇かけてとっただしのように、裏側にある丁寧さから生まれてくるような気がします。

心で味わう

さらに、そのおいしさをいただくときの心の持ち方も大切です。静かにゆったりとした状態で食事を楽しむことで、料理にかけられた時間や、目には見えない作り手の想いを感じ取ることができます。そのためには、心のゆとりが必要です。「時間がなければゆとりは持てない」と思いがちですが、ゆとりとは時間の「量」ではなく「質」。どんなに忙しくても、その瞬間、目の前のことに集中することで、「時間の質」を高めることができるといいます。心を無心に保ち、平常心の中で五感をフルに使う。そこで見えてくるもの、感じ取れるものが、心を豊かにしてくれるのでしょう。

暮らしの質を高める

暮らしについても、おいしい食事と同じことが言えそうです。
暮らしの質を上げていくこととは、微妙な差異を感じていくこと。その差異を見分けていくには、環境や背景が大切です。そして「控えめ」であることも。
背景とは、食事でいえば器やしつらえであり、または目に見えないスープやダシのようなものかもしれません。それらを意識できるかどうか......ぎりぎりのところに、差異が浮かび上がります。それは、思い立ってすぐにできることではなく、時間をかけて積み上げていくものです。
「からだ」の語源は「殻」とも言われます。心をからにすることで、小さな差異が見えてくる。そういったものに気付く感覚が、暮らしを豊かにしていくのではないでしょうか。

おいしい食事について、みなさんはどんな風にお考えですか。
ご意見、ご感想をお聞かせください。

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