旬を味わう ―春野菜―
お彼岸を過ぎてからも続いた寒さの中で、被災地に思いを寄せながら、日本中の人が春の到来を待ち望んだ今年。遅れていた桜前線もやっと北上して、春らしい陽気が満ちてきました。厳しい冬を乗り越えた後につづく春は、明るい希望を運んでくれる季節。旬の野菜が持つみずみずしさと生命力を取り入れて、体にも心にも春の風を吹き込みましょう。
春には冠がつく野菜
新じゃが、新玉ねぎ、春キャベツ......じゃが芋も玉ねぎもキャベツも一年を通してお店に並ぶ野菜ですが、この時季に出回るものだけは、特別に「新」や「春」といった冠をつけて呼ばれます。皮が薄くやわらかい新じゃが、辛みが弱く生でもおいしい新玉ねぎ、みずみずしく生のままでも甘みがある春キャベツ。いずれも、この季節に採れるものだけが持つ味わいで、春という季節の初々しさ、やさしさを、そのままあらわしているようです。
春キャベツは春の味わい
キャベツを選ぶとき「巻きがしっかり締まってずっしり重いものが良品」と聞かされたことはありませんか? それは実は、寒玉と呼ばれる「冬キャベツ」のこと。しっかりとした歯触りでかためですが、煮込むと甘みが出るので、ポトフやロールキャベツのような煮込み料理に適しています。
一方、いま出回っているのは、葉の巻きがゆるくてふんわり軽く、内部まで黄緑色をしている「春キャベツ」。生のまま食べると、やわらかな食感を楽しめ、ほのかな甘みとみずみずしさが春を感じさせてくれるでしょう。もちろん加熱してもおいしく食べられますが、色と栄養を生かすために、加熱時間は短かめに。「春キャベツは蒸すに限る」と断言する人もいますので、こちらも試してみるとよさそうです。
春の葉物野菜
春先の菜花にはじまり、キャベツやレタス、セロリ、ミツバ、クレソン、あしたば、新しいところではイタリア料理でおなじみのルッコラなどなど。春になると、ビタミンやミネラルの豊富な葉物野菜が出回ります。ギリシア、ローマ時代には「貧乏人のクスリ」と呼ばれていたキャベツをはじめ、野菜によって、食欲増進、鎮静効果、抗酸化作用など、隠れたチカラもいろいろ。その季節の人間の体に必要なものを備えているのが、四季折々の旬の食べものと言えそうです。
春の山野から
自然界に目を移すと、春は山菜の季節。山野に自生する植物のうち人間の食用にされるもので、東北地方は特に山菜の宝庫として知られます。山菜には独特の苦みやえぐみがありますが、それが冬の間に体内に溜まった老廃物を排出し、消化や血行・新陳代謝を促すのだとか。春になると山菜摘みに出かけ、季節の味として楽しんできた昔の人たちは、そのことを経験的に知っていたのでしょう。
もちろん旬はありますが、野生ですから、人間の都合に合わせてはくれません。その年の、その土地の気象条件に合わせて、出るべき「時」を決めるのは植物自身。春先から厳しく辛い状況がつづく今年ですが、それでも、4月10日前後には遠野や釜石あたりでフキノトウが芽を出したという便りが届きました。どんなことがあっても、必ず春は訪れる。被災地に芽吹いた山菜の姿から、無言のメッセージを感じ取られた方も多いことでしょう。かつての日本人がそうであったように、私たちも、「旬を待つ」楽しみを思い出してみたいものです。
みなさんは、春野菜をどんなふうに感じ、どんなふうに楽しんでいらっしゃいますか?
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