夏に向かって ―外ごはん―
風光る春から、風薫る初夏へ。外で食事をするにはぴったりの季節になりました。爽やかな風を感じながら、太陽の下での食事を楽しんでみませんか?
庭やベランダで
外ごはんをもっとも気軽に楽しめるのは、週末のブランチ。庭やベランダにテーブルを持ち出すだけで、いつもの食事とまったく気分が変わってきます。
新緑の間をわたってきた風が運んでくるにおい、まぶしい光、鳥のさえずり、空の色や雲の動き......ゆったりと流れる時間の中では、ふだんは気付かなかったことも、聞こえてきたり見えてきたりするでしょう。日常の雑事を忘れて、自分や家族のことに思いを巡らせるのもいいかもしれません。
余裕があれば、料理やテーブルセッティングに少し手間をかけてみるのもいいでしょう。自分で焼いたパンに手作りのジャム、とまではいかなくても、いつものスクランブルエッグをオムレツに替えるくらいなら気軽にできそう。お気に入りのランチョンマットを敷いたり、一輪の花を活けたり、ティーカップを替えるだけでも、ちょっと豊かな気分を味わえそうです。こんな時間を持つことで、自然と「ていねいな暮らし」につながっていくような気がします。
ピクニック
この季節に特におすすめしたい外ごはんは、なんといってもピクニック。遠くまで出かけなくても、近くの公園の芝生の上でいいのです。手づくりの食事や飲み物を携えて出かけ、お気に入りの敷物を広げるだけで、ピクニック気分が高まります。
ピクニックは、19世紀の終わりにイギリスで生まれた風習。パンやチーズ、お茶やワインなどを持って出かけ、日帰りで楽しむものです。そのうち、ピクニック専用のボックスも登場して人気となり、割れにくい器やお湯を沸かすためのランプまで組み込まれたセットも売られました。当時の車には、こうしたピクニックセットがしっかりと格納できるものまであったといいます。
そして、このときに使うクロスは、あくまでもテーブル代わり。中央部は食事を並べるためのスペースで、人間は端の方にちょこっとお尻をのせるのが正式な流儀だそうです。
日本でも江戸時代になると、食事を重箱に詰めて花見などをするピクニックに似た文化が生まれています。その時に使われるのは、毛氈(もうせん)や茣蓙(ござ)。こちらは敷物で、その上にどっかりと座ります。イギリスのクロスはテーブルの見立てであり、日本の場合は床に見立てているということなのでしょう。
お国柄はちがっても、自然の中でのんびりと食事をしながら、季節の変化を楽しんだ人々の様子がうかがえますね。
家の外で過ごすこと
風のにおいや音を感じながら、外で過ごす時間。そこには、私たちが忙しさの中で置き忘れてきた意識や感性をとりもどすための「何か」があるかもしれません。少しオーバーに言えば、家の外で過ごすこと、外で食事をすることは、人間がまだ外で暮らしていた太古の時代の遠い記憶を呼び起こしてくれるかもしれません。
東日本大震災という未曾有の災害を体験して、私たち日本人は、暮らし方を根本から見直そうとし始めています。エネルギーの限界が叫ばれ、さらに食料の自給率の低さや人口の減少などによる未来への不安も加速されました。経済の成長という指標を改めて、別の指標に置き換えることが必要かもしれません。もう一度自分たちの暮らしに向き合って、太古の記憶をたどりながら、日常をていねいに暮らしていくことの中に、次の時代を生きるヒントがあるかもしれません。
豊かさとは何かを考えるきっかけになりそうな「外ごはん」。みなさんは、どんなふうに思われますか? ご意見・ご感想をお聞かせください。