高温多湿の中で ―カレーの話―
夏の暑さの中で食欲がなくなったときでも、カレーなら食べてみようという気になることがあります。暑い国・インドで生まれたカレーは、夏を乗り切るのにふさわしい食事。今回は、そんなカレーについてのお話です。
カレーの歴史
カレーの歴史はとても古く、紀元前2500年、インダス文明初期の時代にまで遡ると言われています。どのような食事であったかはわかりませんが、そのころのインドでは、既にカレーに使われるスパイスが栽培されていたとか。インダス文明が衰退して後、紀元前300年ごろからは、その後の支配者アーリア人の食文化の中に取り入れられていきます。そして、貿易が盛んだったこの国の食生活がアジアの諸国へ。さらに時間をかけて、15世紀ぐらいには東南アジアの諸国はどこでもカレーを食べるまでに広まっていったようです。
日本のカレー
1863年(文久3年)、幕府の遣欧使節の一人、三宅 秀は、フランスに向かう船の中にいました。そこにはインド人も同船していたようで、その食事ぶりを見て、「飯の上に唐辛子細身に致し、芋のどろどろのようなものをかけ、これを手にて掻きまわして手づかみで食す......」と記しています。見たこともないカレーと、インド独特の食事作法に対して、当時の日本人がひどく驚いた様子が見て取れます。また、幕末には外国人居留地で暮らすイギリス人を通してヨーロッパ風のカレーも伝えられていたようですが、この当時カレーを知っていたのは、外国人に接する機会のある、ごく一部の人だけ。一般の日本人にも知られるようになるのは、明治時代に入ってからのことでした。明治5年(1873年)には、「西洋料理通」「西洋料理指南」という2冊の本が出版され、そこにはカレーのレシピも紹介されています。
日露戦争(1905年、明治38年)では、陸海軍で兵士達の食料として、カレーが採用されました。一度に大量につくることができて、日持ちがして、しかも栄養を補給するには最適な食事だったからです。そして、戦場でカレーを食べた兵士達が家に戻って各家庭にも普及し、明治時代後半には庶民的な飲食店でも扱われるようになっていきます。ちなみに、海軍でカレーを食べた習慣は現在の海上自衛隊にも引き継がれていて、いまでも毎週金曜日が「カレーの日」になっているそうです。
大正時代に入ると、タマネギ、ジャガイモ、人参などの他の野菜も使われるようになり、いまのカレーに近いものになりました。お店もいくつかできましたが、特に有名なのは、新宿中村屋のカレーです。1927年(昭和2年)、日本に亡命中だったインド独立運動家ラス・ビバリー・ボースを保護していた創業者の相馬愛蔵が、ボースの助言で本格的なインド式「カリー・ライス」をつくったのが始まりとか。最高の食材でつくった中村屋のカレーは、当時としてはかなり高価なものでしたが、それでも多くのファンが付いたと言います。
カレーは健康にいい
こうして日本に定着したカレーですが、カレーにはたくさんのスパイスが入っています。スパイスにはそれぞれの効能があることが知られていて、主なところは、次のようなものです。
- ・ターメリック(鬱金 うこん)
- 鎮痛、二日酔いなど
- ・コリアンダー(胡子 こずいし)
- 胃の薬、かゆみ止めなど
- ・クローブ(丁字 ちょうじ)
- 消化機能促進、消炎など
- ・シナモン(桂枝 けいし)、肉桂(にっけい)
- 胃の薬、風邪など
- ・レッドペッパー(蜀椒 しょくしょう)
- 咳止めなど
- ・フェンネル(茴香 ういきょう)
- 去痰、胃の薬など
- ・カルダモン(縮砂 しゅくさ)
- 胃の薬など
- ・クミン(馬芹 うまぜり)
- 胃の薬など
- ・ナツメグ(肉豆蒄 にくずく)
- 胃の薬、下痢止めなど
カレーは、暑い国・インドで生まれた食べもの。カレーの辛さは、汗を排出し、新陳代謝を促し、食欲を増進させてくれます。蒸し暑いこの時季、そして夏本番のこれから、もっとカレーを楽しんでみませんか。
いまでは本格的なカレーのお店が増え、カレーを楽しむためのさまざまな食材も売られています。それぞれの家庭にも、「わが家のカレー」があるでしょう。日曜日をカレーの日として、お父さんが腕をふるう家庭もあるとか。入口が入りやすく奥の深いカレーは、「男の料理」としても楽しめそうです。
みなさんのお宅では、どんなカレーを召し上がっていますか?
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