食の型紙 ―お粥―
子どものころ体調の悪いとき、お母さんが作ってくれたお粥(かゆ)を食べて、ホッとしたことはありませんか? いまやお粥もレトルトで出回っている時代ですが、自分で作れば、そのときの体調に合わせたお粥ができることは意外と知られていないようです。ダイエット目的の場合はさておき、お粥を食べたくなるのは、たいてい、胃や腸が休養を欲しているとき。それだけに、かつては、どこの家庭でも家族の体調に合わせて作られるものでした。
以前のコラム「味の型紙」では手作りの基本となる調味料の比率について書きましたが、今回は主食のひとつであるお粥の型紙をご紹介しましょう。
水の量による分類
お粥は、米や雑穀などを多めの水で柔らかく炊いたもの。消化がよく身体も温まることから、胃や腸が弱っているときや風邪気味のときなどは特にお勧めの調理法で、赤ちゃんの離乳食に用いられるのもそんな理由からでしょう。
お粥は、水の量によって「全粥」「七分粥」「五分粥」「三分粥」などと分類されます。お米と水の分量比は、「全粥」が米1:水5、「七分粥」が米1:水7、「五分粥」が米1:水10、そして「三分粥」は米1:水20。この比率を覚えておくと、便利なだけでなく、その日の体調に最も合ったお粥を作ることができます。
「重湯」は、お粥の上澄み液である糊状の汁をガーゼで漉したもの。最も消化吸収がよいので、昔から病人のための流動食として食べられてきました。病気などで体力が落ちたときは、重湯→三分粥→五分粥→七分粥→全粥と、体力や胃腸の具合に応じたお粥をとりながら普通食に戻していくのです。
お粥のいろいろ
具や味付けによる分類もあります。米と水だけで炊く最もシンプルなお粥は、「白粥(しらがゆ)」。それに山芋やサツマイモを入れて炊けば「芋粥(いもがゆ)」で、小豆が入れば「小豆粥(あずきがゆ)」。白粥の上に出汁(だし)を張り、鯛などの魚の身をほぐしてのせたものは、「霰粥(あられがゆ)」と呼ばれます。
お粥は、季節の行事やくらしの節目とも結びついていました。正月15日の朝、一年中の邪気を払うために食べるのは「小豆粥(別名、桜粥)」。春の七草を入れた「七種粥(ななくさがゆ)」は、1月7日の七種(ななくさ)の節句に。また、子どもが生まれて3日目の祝いに用いる「啜り粥(すすりがゆ)」、7日目の祝いに用いる「長彦(ながひこ)の粥・七彦(ななひこ)の粥」など、子どものすこやかな成長を祈る行事にも欠かせないものでした。珍しいところでは、引っ越しのとき手伝いの人に出す「屋移り粥・家渡り粥」や、新築移転の祝いにふるまう「渡り粥」などというのもあったようです。
冷やしてもおいしい茶粥
白粥がお米と水だけで炊き上げるのに対して、焙じ茶で香ばしく炊き上げるのが「茶粥」。奈良の僧房で食べられていたものが民衆に広がったといわれ、東大寺二月堂の「お水取り」でも、こもりの僧たちの夜食に「ごぼ」という茶粥が出されます。
お粥といえばことこと煮込むイメージですが、茶粥は強火で一気に炊き上げるのが特徴。木綿などで作った茶袋に茶葉を入れ、お湯を沸かした鍋で抽出しながら、お米も一緒に炊き上げます。茶葉の種類や量だけでなく、茶袋を入れたり引き上げたりするタイミングによっても甘みや渋みが変わり、それが各家庭の味になるのだとか。
奈良だけでなく、和歌山、大阪府南部、京都府の一部、山口など西日本各地で食べられ、いまでも「朝はおかいさん」という家庭も多いようです。お茶粥のことを「おかいさん」「おかゆさん」と親しみを込めて呼ぶのも、それだけ生活に根付いたものだからなのでしょう。熱々もおいしいのですが、夏には冷やして食べるといっそうおいしいといいます。強火で炊くのでお米の粒々感が残っていて、白粥に比べて腹持ちがよいのも特徴。そのためか、最近ではダイエットのためにお茶粥を愛用している人も多いそうです。
もともとは、家族の健康を気遣いながら、それぞれの家庭で炊いてきたお粥。いまの私たちも、水とお米の比率さえ知っておけば、その日の体調に合ったお粥をもっと気軽に作ることができるのではないでしょうか。
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