うれしい日のお赤飯
きれいに着飾って七五三のお参りへ行く親子連れを見かける季節になりました。こんなお祝いの日に欠かせない食べものといえば、赤飯。ある調査で、「赤飯が好きですか?」と訊ねたところ、87%の人が「好き」「どちらかといえば好き」と答えたそうです。その理由は、「食感、味が好き」に続いて、「特別な気分になれる」が第2位。たしかに、食卓に赤飯があると、「今日はいいことのある日だな」と子どもにも想像できたものでした。
ハレの日の赤飯
調査(朝日新聞be between/2015年9月12日掲載)の回答が示すように、日本人にとって、赤飯はハレの日の食べもの。出産、入学、卒業、結婚、定年退職といった人生の節目にはもちろん、お節句やお祭り、正月といった季節の行事にも、ことあるごとに登場します。
そんな赤飯は、当然、学校給食でも人気メニュー。千葉県松戸市のある中学校でも、卒業式前のある日、赤飯が出されました。その給食献立表に書かれていたのは、「3年生最後の給食です。3年生の健康と、これからたくさんの特別な日(ハレの日)が迎えられるようにお赤飯にしました」というメッセージ。赤飯を一緒に食べることによって、家族や地域で喜びを共有していた食の歴史は、いまなお息づいているようです。七五三などの内祝いとして赤飯を配る風習も、「喜びを共有したい」という思いからなのでしょう。
元祖赤飯
赤飯のルーツは、今からおよそ2500年前、日本に初めて伝わったとされる米、「赤米」。かつてはこの赤米を蒸したものを神に捧げて豊作を祈願し、そのお供えのお下がりとして、人間も赤米を食べたといわれます。赤は、神社の鳥居や墓室の壁画などに使われるように、古代から邪気を祓う(はらう)力があるとされてきた色。その意味でも、赤米は神にささげるのにふさわしいものだったのでしょう。その後、稲作技術の変遷により赤米が作られなくなってからも、赤い色のご飯を供える風習は根強く残りました。そして、江戸時代中期には、代用品として白いお米を小豆で色づけしたものが赤飯(あるいは小豆飯)として広まったとか。そこに込められた「祈りや願い」とともに、赤飯はくらしの中で受け継がれてきたのです。
どんな時に赤飯を
同じアンケート調査のなかに、「どんな時に赤飯を食べる?」という質問がありました。2位以下の答え(複数回答・10位まで)は「誕生日(686人)」「入学式(645人)」「卒業式(530人)」「結婚式(522人)」「合格祝い(456人)」「長寿のお祝い(443人)」「出産(379人)」「節句(327人)」「来客のもてなし(178人)」
と、ある程度想像のつくものですが、1位は意外にも「食べたい時(850人)」というもの。
赤飯弁当や赤飯おむすびがコンビニで手軽に買える時代になった今、いつでも食べられる便利さがある反面、「ハレの日の特別な食べもの」としての赤飯の意味は薄れつつあるのかもしれません。
とはいえ、「子どもが巣立って、食べる機会が減った。今は食べたい時にふと買って食べるものになって、何だか残念」「赤飯を食べた回数が多くなればなるほど、幸せな思い出も増えるような気がする」といった声も。家族の思い出とともにある赤飯の本質を物語っているようですね。
各地の赤飯、わが家の赤飯
赤飯といえば、モチ米に小豆とその煮汁を混ぜて蒸した赤色のおこわ(=強飯、こわめし)。というのが一般的なイメージですが、調べてみると、各地にさまざまな赤飯があることに驚かされます。小豆ではなく「ささげ」を使うのは、関東風。小豆は蒸すと皮が破れて胴割れしやすく、「切腹」を連想させて縁起が悪い、というのがその理由です。甘納豆(花豆、金時豆など)を入れるのは北海道。千葉県の一部では、特産の落花生を使用。砂糖で味付けする青森、醤油で色付けする新潟県中越地方、さといもを一緒に蒸して「さといもの赤飯」が作られる福井県大野市、「ごま砂糖」をかけて食べる徳島県鳴門市
などなど。食の平均化が進むなか、これだけ地方色豊かな赤飯が厳然と残っているところに、日本人の赤飯に対する強い思い入れを感じます。
また、同じ地域でも、家によってその味も様変わりするとか。同じアンケートの「家で赤飯を炊きますか?」という質問に対して、「はい」と答えた人が43%(回答者数1880人)あったのも、家庭の伝統の味とつながっているからかもしれません。
赤飯の日
あまり知られていないようですが、「お赤飯の日」も存在します。「お赤飯の日制定委員会」が2010年に制定した記念日で、11月23日。現代では「勤労感謝の日」として祝日にされていますが、古くは天皇がその年に収穫した穀物をすべての神々に感謝して供える「新嘗祭(にいなめさい)」の日です。
命の糧を神さまからいただくための勤労を尊び、元気で働ける幸せに感謝して、赤飯で祝う。そんな勤労感謝の日も、また意味がありそうですね。
手作りのサラダを恋人が誉めてくれたから、誉められたその日を「サラダ記念日」としたのは、歌人の俵万智さんでした。そんな風に、嬉しい日や楽しい日を自分だけの記念日にする。そして、そこに赤飯があれば、ひとりひとりの「赤飯の日」になるでしょう。なにげない日常のなかに「ハレの気分」を持ち込むことで、くらしの景色が少し違って見えるかもしれません。
みなさんは、どんなときに赤飯を召し上がりますか?