研究テーマ

サルベージ料理

「残さず食べてハッピーに(Restlos glücklich)」──昨年秋、ベルリンにオープンしたというレストランの店名です。そこで使われる食材の90%は、ゴミ箱行きになりそうだった食品を「救出」したもの。飽食と食料廃棄への問題提起として始まった活動ですが、同じ発想から、日本でも食材の「救出(サルベージ)」が広まりつつあります。今回は、おいしく食べながら食料廃棄の減少にもつながる、サルベージ料理についてご紹介しましょう。

サルベージ料理とは?

海難救助船を「サルベージ船」と言うように、「サルベージ」とは本来、「救助する、助け出す、復帰させる」といった意味の言葉。料理の分野でいえば、そのまま行けば捨てられてしまう運命にある食材を「救出する」ことです。
例えば、食品棚の奥で眠っている缶詰や乾物、野菜室の中でしなびかけている野菜、冷蔵庫のドアポケットに溜まった賞味期限切れ間近の調味料…出番がないままに放置されている食材は、どこの家庭にもあるでしょう。それを発見したときも、忙しさにかまけて、見て見ぬふりをしてやり過ごすことが多いもの。そうして置き去りにされた食材は、結局、使われないまま棄てられることが多いのですが、それらを「救出」し、新たな一品として生まれ変わらせるのです。

サルベージのパーティー

食材を棄てないためには、食べられるうちに使い切ればいい。わかってはいても、忙しい日常の中で、また食材を使い切る知恵も伝承されていない中で、その方法論がわからない、というのが正直なところでしょう。
そこでいま人気を呼んでいるのが、イベント型のサルベージ料理のパーティーです。参加者が持ち寄った余りものの食材を使って、プロのシェフが即興でメニューを考案し、目の前で調理し、完成した料理をその場でシェアするというもの。プロの手によって食材がよみがえり、ご馳走に変身するのをまのあたりにすると、参加者それぞれが自分の暮らしの中で何ができるのかを想像しやすく、無理のないアクションに結び付けられるといいます。
また、仲間内で余りものを持ち寄って食材をサルベージするホームパーティーも広がっているとか。一緒になってその食材の新しいレシピを考え、作って食べるというライブ感が人気の理由だそうです。

食材を活かすコツ

余りものの活用は、ネット上でも広がっていて、みんなの知恵を集めてレシピを公開するサイトが人気を集めています。そうした情報によると、サルベージ料理の発想のコツは、食品ごとに味の要素や材料を分解して考えてみることだとか。例えば、佃煮(昆布+しょうゆ・みりん・砂糖)は、だしや調味料として、そのまま煮物の味付けに。ゆかり(梅干のような酸味と香り+塩)は、梅肉和え風の味付けに…といった具合です。また、湿気たせんべいをクルトンに見立ててスープに浮かべるといった、「見立て」も一つの方法。要は、食材に対する固定観念を捨てて、いま目の前にあるものをどう活かすかということなのでしょう。

食べものは食べるためにある

こうした動きの背景には、食品廃棄の問題があります。FAO(国連食料農業機関)の報告書によれば、農業生産から最終消費までの一連の流れの中で、世界の生産量の3分の1にあたる約13億トンの食料が毎年廃棄されているとか。日本では、年間約1,700万トンの食品が廃棄され、そのうち食べられるのに廃棄されている「食品ロス」は年間約500~800万トン。これは日本のコメ生産量に匹敵する数字だといいます。(農林水産省発表・平成23年度推計)
食品廃棄の事情については以前のコラム「食品ロスについて」でご紹介しましたが、私たち消費者が「食べられる・食べられない」を自分の感覚で見極められないことにも原因がありそうです。農林水産省の定義を要約すれば、「賞味期限Best-before」とは「おいしく食べることができる期限」。そして、「賞味期限が過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではないことを理解して、見た目やにおいなどの五感で個別に食べられるかどうか判断することが重要」と記されています。いつの頃からか、自分の五感への自信を失い、表示された情報だけに頼るようになってしまった私たち。現代人のそうした脆弱さが、まだ食べられるものを棄ててしまうことにつながっているのかもしれません。

栄養不良のため5歳未満で命を落とす子どもが年間500万人もいる一方で、膨大な食料を廃棄している現代社会。家庭にある食材をムダにせず使い切ることで、社会の歪みを少しでも変えていきたい。サルベージ料理やパーティーの広がりには、そんな想いが汲み取れます。目新しい動きのように見えますが、実はかつての日本人が「あたりまえ」にやっていたこと。
魚も肉も野菜もすべて命であり、人間は他の命をいただくことで生きています。日本独特の食前のあいさつ、「いただきます」は、私たちの命の糧になってくれるすべての命に対して感謝する言葉。食材を使いきるということは、すべての命へのリスペクトと言えるかもしれません。
みなさんは、どんな工夫をしていらっしゃいますか?

研究テーマ
食品

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