乾物と干物
水分を抜いて乾燥させた食べもの「カンブツ」には、「乾物」と「干物」の二つの字があります。干物の方は、普通「ひもの」と呼ばれるもの。刺身好きで知られる日本人が、その対極にある干物を好んで食べるのも、不思議といえば不思議ですね。今回は、そんな干物の魅力をご紹介しましょう。
水分を抜く
カンブツ(乾物・干物)の「乾」は訓読みすると「かわかす」で、「干」は「ほす」。どちらも素材から水分を取り除くということに変わりはありませんが、一般的には、野菜や海藻など植物性食品を乾燥させたものを「乾物」、魚介類を乾燥させたものは「干物」と区別しているようです。とはいえ、乾物屋さんには鰹節や干し貝柱、煮干しなども売っていたりするから、ややこしい。生活実感としては、「素材の水分を完全に抜いてあり、常温保存できるのが乾物。素材の味を引き出すために適度に水分を抜いてはあるが、日持ちはしないので冷蔵保存が必要なものが干物(『雑学大全2』東京書籍)」という説明がわかりやすいかもしれませんね。
干すと、おいしい。
カンブツはもともと、先人たちが旬の食べものをながく食べられるようにと工夫した保存食品。特に生の魚介類は、そのままだとすぐに腐ってしまいますが、干物にすれば日もちし、風味も保たれます。保存性を高めることを目的に生まれたカンブツですが、うれしいオマケもついてきました。水分を抜くため天日や風にあてた結果、生のものにはないおいしさが加わったのです。一夜干しのイカに刺身とは違う旨みがあり、濃厚な青魚も脂が抜けて奥行きの深い味わいになるのは、そのおかげ。冷蔵庫が普及した現代でも干物が好まれるのは、結局「おいしい」からなんですね。
自家製は、もっとおいしい。
スーパーや魚屋さんで買うもの、というイメージの強い干物ですが、実は家庭でも意外と簡単に作ることができるとか。「やってみると簡単」と、手作り派は口を揃えます。基本は開いた魚に塩をして、陽あたりと風通しのよい場所に並べて干すだけ。お日さまと風にあたった干物のおいしさは格別ですが、気温が高すぎたり風通しが悪かったりするとうまくいかない場合もありますので、秋晴れの日を選んで干すのがよいでしょう。
レシピの多くには「まず魚をおろして開きにする」と書かれていますが、ここでくじけることはありません。最近はスーパーの魚売り場でも一匹売りの魚をさばいてくれるところが増えていますから、ちょっとお願いして、プロの手を借りてしまえばいいのです。
アバウトでも大丈夫。
干物作りに適した魚は、白身魚ではカマスやアマダイ、エボダイ、キンメダイ、青魚ならアジ、イワシ、サバ、サンマなど。基本的に魚の種類は問いませんが、さばきやすく値段も手ごろなことから、ビギナー向けには多くのレシピでアジを勧めています。
振り塩で作る方法もありますが、塩気にムラが出やすいので、初心者には塩水がお勧め。塩水の濃度は、なめてみて海水よりも少し塩っぱいくらい。「白身は薄く、青魚は濃いめ。同じ魚でも大きさや脂ののり具合によって塩分や漬け込み時間を増減」と、レシピにはいろいろ細かい注意書きもありますが、最初はあまり神経質にならず、まずは自家製のおいしさと楽しさを味わいましょう。ただし塩だけは、精製塩ではなくミネラル成分の残った天然塩の方が、ダンゼンまろやかに仕上がるようです。
冷蔵庫で干物
陽当たりや風通しが悪く干す場所もない都会暮らしでは、干物作りなんて無理。そんな声も聞こえてきそうですね。でも、要は水分を抜けばいいわけですから、扇風機や冷蔵庫を利用するという方法も。扇風機を使うなら、バットにのせたザルの上に薄塩をふった魚を並べ、2時間くらい風にあてると、半生干しのようなおいしさが味わえます。冷蔵庫の冷風を利用するなら、魚を塩水に30分くらい浸けた後、ザルに並べて受け皿にのせた状態で冷蔵庫に入れ、約24時間かけて乾燥。さらに、脱水シートを利用する方法もあり、塩水に浸けた魚を脱水シートで挟めば、冷蔵庫で半日程度で乾燥できるといいます。お日さまのパワーはないものの、混じりもののない塩味だけでできた干物は、自家製ならではのおいしさ。一度食べたら、病みつきになる人も多いようです。
太陽の光や風にさらして水分を抜き旨みを封じ込めたカンブツは、先人たちの知恵が詰まった伝統的な保存食品。そのおいしさを、お金と交換でいつでも気軽に手に入れることができる私たちは、とても幸せな時代に生きているのでしょう。その幸せに感謝しつつ、たまには自家製の干物にチャレンジしてみませんか? 空気が乾いた秋晴れの日は、干物日和です。
9月16日(金)発行予定の小冊子「くらし中心 no.16」では、「乾物新発見」をテーマに、ふだんの暮らしで手軽に使える乾物とその料理法をはじめ、乾物のさまざまな情報をご紹介しています。全国の無印良品の店頭で無料配布すると同時に、「くらしの良品研究所」のサイト小冊子「くらし中心」からもダウンロードできますので、ぜひご覧ください。