隠し味、いろいろ
1位は、にんにく。以下順不同で、りんご、蜂蜜、ヨーグルト、生姜、コーヒー、チョコレート、赤ワイン、醤油、ウスターソース、梅干し、塩辛、ビール ある調査でカレーについてのアンケートをしたところ出てきた、「隠し味」のいろいろです。同じ材料で、同じ市販のルーを使ったとしても、家庭によってカレーの味がちがうのは、きっと「隠し味」が違うから。今回は、そんな「隠し味」について考えてみましょう。
見えないものが味を決める
広辞苑によれば、「隠し味」とは「ある調味料を目立たぬ程度にごく少量加え、全体の味を引き立たせる調理法。また、その調味料」。「隠し」というからには目立ってはいけないわけで、あくまでもメインの味を引き立てる脇役です。
例えば、お汁粉やぜんざいの甘味を引き立てているのは、ほんのひとつまみの塩。すりおろしたワサビに砂糖少々を加えると、辛味が増すともいいます。こんなふうに、それ自体が料理に絶対に必要というわけではなくても、他の食材の風味を引き立て、味の決め手になるのが隠し味。「隠し味」で検索すると、料理レシピの有名サイト上では1万を超えるレシピが紹介されていて、多くの人が意識して使っていることがわかります。
例えば、こんなもの
インゲンのゴマ和えは、ゆでたインゲンをゴマだれで和えるだけの、いたってシンプルな料理です。でも家庭で作ると、インゲンが水っぽくなることもしばしば。実はプロの作るゴマ和えにはちょっとしたコツがあって、ゆで上げたインゲンの熱いうちにさっと醤油をふりかけ、その味を中まで滲み込ませたうえでゴマ和えにすると、水っぽさがなくなりコクが出るのだとか。料理用語では「醤油洗い」といわれ、醤油が隠し味となっている好例です。
また、すき焼きの煮汁が煮詰まったときに足す「薄割り下」は、東京では水に清酒を合わせた「玉酒」、関西では「昆布だし」。お酒や昆布が隠し味になって、水やお湯だけで割るより、はるかにうま味が増してきます。
精進料理の「擬製豆腐」も、一種の隠し味。基本的に動物タンパクの食材は使えないものとされていたお寺で、煎り豆腐のなかに内緒で卵を割り込み豆腐料理のように見せかけたところから、その名がついたとか。これぞまさに、僧房の隠し味ですね。
隠し味と隠し包丁
日本料理には、「隠し味」と並んで「隠し包丁」という言葉もあります。「忍び(しのび)包丁」ともいわれ、盛り付けたときには見えない隠れた部分に包丁で切れ目を入れる手法。そうすることで、火の通りがよくなり、味が滲み込みやすくなり、食べるときには箸でちぎりやすくなるのです。ふろふき大根で厚く輪切りした大根の裏側に十文字の切れ目を入れたり、魚の姿焼きなどで盛り付けの裏側に包丁目を入れたりするのも、みんな隠し包丁。人に気づかれないところでおいしさを追求するという意味で、隠し味と同じですね。
ちなみに、「飾り包丁」という言葉もありますが、こちらは仕上がりの美しさを目的にしたもの。見えないように切れ目を入れる「隠し包丁」に対し、盛りつけたときに飾りになるように切れ目を入れる手法ですが、味がしみこみやすくなるという点では隠し包丁と同じ効果があります。
味だけではない、隠し味
狭い意味での「隠し味」は味覚や嗅覚を満足させるポイントになる調味料やスパイスですが、もっと広い意味でとらえ、「目に見えない心配りや料理技術、調味技術など、料理のおいしさを左右する工夫のすべてが隠し味」という人もいます。産地を選ぶことから始まり、旬の食材を使うことも、下味をつけるタイミングや方法も、器のセレクトや盛り付けの美しさも、すべて「隠し味」として大切なノウハウだというわけです。
隠し味が必要なのは、料理の世界だけではありません。例えば、会話の途中で、時折りうなずいたり相槌を打ったりして相手が話しやすい雰囲気をつくるのも、コミュニケーションの隠し味。子どもに何か注意するときも、ちょっと体に触れたり、笑顔を見せたりすることで安心感を与えながら話すのも、隠し味のひとつといえるでしょう。
狭義にせよ広義にせよ、「隠し味」の根底にあるのは、相手への心遣いなのかもしれません。
目立たないけど、全体を決めるほどの大事なモノやコト。隠し味は、縁の下の力持ちのような存在です。「目立って、なんぼ」の現代社会においては珍しいものですが、それを「わかる」「気づく」人がいることで初めて、隠し味も生きてくる。表面的には見えない、隠されたものの価値を見出すには、「見えない」モノやコトに気づくだけのゆとりや感性が必要かもしれませんね。
みなさんは、どんな隠し味を使っていらっしゃいますか?