研究テーマ

五色を食べる

撮影:黒坂明美

自分を元気づけたいときは明るい色、落ち着きたいときはモノトーン…気分や場面に合わせて、着るものの色を替えている方は多いでしょう。それはきっと、色が自分の気持ちを引き立てたり静めたりしてくれることを知っているから。そんな力が、実は、食べものの色にもあるといいます。今回は、私たちのからだやこころに影響を与えるという「食の色」に注目してみました。

毎日、五つの色を

撮影:黒坂明美

中国料理、韓国料理、日本料理…まったく違って見えるこれらの料理には、共通する考え方があります。古代中国に始まった自然哲学「五行思想」に基づく、「五味・五色・五法」がそれ。毎日の食事のなかで五つの色(白・黒・赤・黄・緑)の食べものを摂れば、自然と元気になれるというものです。そして、五つの調理方法(生・煮る・焼く・揚げる・蒸す)、五つの味(甘味・塩味・酸味・辛味・苦味)で変化をつければ、食が進み、おいしく食べられるとも。曹洞宗の開祖、道元禅師が記した『典座教訓(てんぞきょうくん)』にも出てくる言葉で、日本料理の基礎にもなっています。

色のチカラ

撮影:黒坂明美

肉食や刺激物を禁じた精進料理は別として、五色の食材は野菜、果物から肉、スパイスまで広い範囲にまたがります。白は、白米や麺類、大根、レンコン、芋類、白身魚や鶏肉など。赤はトマトやスイカなどの赤い野菜や果物と肉、魚の赤身。緑はほうれん草などの緑野菜。黒は海藻類やごぼう、黒ゴマ。黄はニンジン、かぼちゃ、みかん、などなど。そして、五色は「五臓」に対応し、赤は心臓、緑は肝臓といった具合に、それぞれの内臓の働きを整えるとされているのです。
「食は医なり」という格言がある古代中国の周王朝時代(紀元前8世紀)では、「食医」が医者の最高位。陰陽五行思想を医学に取り入れて食を研究し、五色と人間の臓器を対応させて、陰にも陽にも偏らないバランスの良い身体を維持することで、宮廷人の健康を守っていたといいます。

日本の五色

「五味・五色・五法」は中・韓・日の料理に共通した考え方ですが、色については、時代とともにそれぞれのお国柄を映していきます。薬膳的な効能を重視する中国のそれに比べて、独特の美意識で磨きぬかれていったのが日本の五色。
食材やあしらいの色だけでなく、お膳や器の色など、しつらえも含めた色合いを大切にし、食欲増進、清潔感、安心感といった意味まで込められているのです。日本の茶室は明度と彩度を抑えた「色を見るための色」、つまり「捨て色」で造られているといいます。そうした色を背景に、利休は楽茶碗の赤と黒に抹茶の緑を対比させたのだとか。懐石料理の色もまた、茶室という空間のなかで美しく映える演出がなされているのかもしれません。「日本料理は目で味わう」といわれるゆえんです。

一品で五味五色

韓国料理になると、また少し趣が変わってきます。辛い料理がお得意な国だけに、五色の「赤」の代表には唐辛子が登場。そして、一品で五味五色を味わえる料理も存在します。例えば、私たち日本人にもおなじみの白菜キムチ。「緑=白菜の葉の緑部分」「赤=唐辛子」「黄=白菜の葉の黄部分、ショウガ、ニンニク」「白=白菜の茎の白部分」「黒=塩辛などの薬味類」と五色の食材を網羅し、五つの味もすべて含んでいます。この他、白いごはんの上に豆モヤシやほうれん草などのナムルと卵や肉のそぼろなどを載せ、コチジャンや胡椒、ショウガなどと一緒に混ぜて食べる「ビビンバ」も一品で五味五色。忙しい現代人のヒントになりそうですね。

最先端の五色

ここ数年、注目されている食物の成分のひとつに「ファイトケミカル(フィトケミカル)」があります。植物の色素・香り・アクなどに含まれる成分で、紫外線や害虫から身を守るために植物が自らつくりだしている化学物質の総称。赤いトマトやスイカに含まれるリコピン、緑のほうれん草やピーマンに含まれるクロロフィル、黄色いショウガに含まれるショウガロール、白い大豆に含まれるイソフラボン、黒い豆などに含まれるアントシアニン…といった物質が、人間の体の機能を活性化させる「機能性成分」として注目されているのです。そしてこれらは、単独で摂るよりもさまざまな成分を組み合わせて摂ったほうがより効果的だといいますから、昔ながらの五色の知恵は科学的にも証明されたといえるでしょう。

「五色を毎日の食事で」といわれると大変なような気もしますが、でも私たちは、知らず知らずのうちにこれを実践しています。その代表的なものが、お弁当。白いご飯に赤い梅干し、黒い海苔、緑のほうれん草、黄色い卵、赤い鮭…おなじみのお弁当メニューは、味と栄養のバランスがとれているだけでなく、五色の配色がおいしく見せ、食欲の増進にも一役買っていることに気づきます。実は暮らしのなかで、ひっそりと根づいていた五色の食べもの。それを再認識することで、私たちの食生活はさらに豊かに広がっていくのかもしれませんね。
みなさんは、日々の「食の色」について、どんなことを意識していらっしゃいますか?

2017年8月23日発行の小冊子「くらし中心 no.18─色のまんま─」では、さまざまな角度から「色」についての情報をご紹介しています。全国の無印良品の店頭で無料配布すると同時に、「くらしの良品研究所」のサイト小冊子「くらし中心」からもダウンロードできますので、ぜひご覧ください。

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