研究テーマ

日替わり店長の店

日替わりランチ、日替わり弁当、日替わり定食、日替わりセール…珍しいところでは、お坊さんの日替わり法話や映画館の日替わりシネマまで。世の中にはさまざまな「日替わり」がありますが、共通しているのは、その時にしか味わえない特別感。「日替わり」と聞いただけでなんとなくワクワクするのは、そのせいかもしれません。京都市上京区には「日替わり店長」をうたうユニークなお店があると聞きました。若者の多いその街で、「日替わりの店長」にはどんな意味があるのでしょう。

若者が社会とつながれる場を

そのお店は、「まほロバ」の愛称で親しまれている「魔法にかかったロバ」。代表の山崎達哉さんが6年半前に始めました。「日替わり店長」という仕組みを考えたのは、「どんどん複雑になっていく社会の中で、いまを生きる若者たちが社会とつながれる場所にしたい」という思いから。ここでは、店を開きたい人が日替わりで店長になり、特定の日に自分たちで開店。飲食店や教室、時にはイベント会場として、さまざまな可能性を探りながら、それぞれの人が自分を表現しています。お店のある京都市上京区は、立命館や同志社など大学が多い地域で、京大にも自転車でいける距離。学生が社会に対してやりたいことを気軽にトライできる環境をつくることで、日本のカルチェ・ラタンともいえる雰囲気が生まれているようです。

多様な出会いの場

もともと喫茶店だったという店内は、カウンターを入れて20~30人、テーブルを取り払えば40~50人が入るくらいの広さです。ごく初期は出店者探しに苦労したようですが、今では月に1組か2組の新店長が生まれるほど。開店後6年半で、高校生から大学生、サラリーマン、70代の女性、焼肉屋さん、京都市長まで、延べ500人もの店長がカウンターに立ってきました。そして、多様な世代や立場の人が多様なコンセプトを発信。その人たちの周りにまた多様な人たちが集まってきて、多様な出会いを生み続けています。
以前のコラムでご紹介した「きっかけ食堂」の舞台になったのも、実はこのお店。東日本大震災の月命日である毎月11日に学生たちが開くその食堂は、当時の店長が卒業した今も後輩たちに受け継がれ、「2代目きっかけ食堂」として活動を続けています。

一緒に考える

代表代行の富樫葵さん

毎回の出店料は、「昼の部4000円、夜の部8000円(いずれも税別)プラス売り上げの10%」。初回だけ研修費として3,240円必要ですが、初出店時には事務局の手厚いサポートを受けられます。事務局の合言葉は「ファン1」。店長のファン1号になるつもりでサポートする、という思いを込めた言葉です。代表代行の富樫葵さんが見せてくれたのは、開店するにあたって「やりたいこと、来てほしい人、メニュー」などを具体的に考えていくためのコンセプトシート。こうしたものを基に、最初の出店までに、少なくとも2~3回は事務局とのミーティングを持ち、アイデア出しやアドバイスなどを受けるといいます。
また、月に2回は「店長たちのヒミツ会議」を開催。認定店長だけでなく、「これから何かやってみたいな」と思う人も参加して、今までの店長の失敗も含めた体験談を聞いたり、自分のやりたいことの試作品を見せて他の人の意見や感想を聞いたりする場にもなっているようです。

場のチカラ

日替わり店長たちのつくるお店は、実に多種多様です。トルコの家庭料理の店、丹後の新鮮な野菜を使った「オーガニック野菜カレーの店」、占いキャフェ、障がい者支援の農園野菜で作った料理を出す食堂、中学生以下無料の「子ども食堂」、シンガーソングライターが来て歌う「カウンターショー」、学生に100円でおごる「課外授業酒場」、ジビエ料理(鹿肉)とお酒を愉しみながら森林(もり)と出合う「林業BAR」、絵本カフェ、障がいについて明るく語り合う「発達障がい啓発バー」などなど。
オープン当初から続いているお店は、一条寺の有名焼き肉店が月に二回出張して食べ放題のランチを提供する「焼き肉屋の気まぐれランチ」。この焼き肉店はたまにお店でライブなどのイベントを行なっていて、代表の山崎さんがその前座としてギターを弾いていたことから、お返しとして出店してくれるのだとか。リアルな人間関係から生まれる、つながりの面白さを実感させるエピソードです。

高齢者も夢を持つ

日替わり店長になるのは、若者だけではありません。3年前、最高齢の店長としてカウンターに立っていたのは73歳の女性。その年齢で毎週一回オムライスの店を出していたというだけでも驚きですが、なんとその後、自分の手で自分のお店を開業。「ずーっとお店をやりたかった」という夢を、73歳にして叶えてしまったのです。有機野菜をふんだんに使ったおばんざいや玄米オムライスを売りにするそのお店は、まほロバで出店していたころと同じ店名。その当時のお客さんが店名で気づいてやって来ることもあるといいますから、まほロバでの出会いが人のつながりを生み出し、深めているのがわかります。

若い人だけでなく、何かを始めてみたいと思う人のトライアルの場となり、そこでのさまざまな気づきが何かを生む「日替わり店長の店」。元気いっぱいの若者のチャレンジの場としてはもちろん、現代社会のなかで生きにくさを感じている人たちにとっても、新しい世界へ一歩踏み出すための扉になるような気もします。
こんなお店が身近にあったら、みなさんはどんなことをしてみたいですか?

研究テーマ
食品

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