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小豆って、すごい!

コロナ禍の巣ごもりで、なにかやり残したような気分のまま終わってしまった今年のお正月。でも日本には、まだもうひとつのお正月があります。1月15日の「小正月(こしょうがつ)」。平安時代の『枕草子』にも記されているように、この日は小豆粥(あずきがゆ)を食べて無病息災を願うのが古くからの慣わしでした。家に居ながらにしてお正月気分を味わえるという意味では、今年にぴったり。今回は、小正月に因んで、体にもおいしい小豆の魅力をご紹介しましょう。

小豆の赤は魔除けの色

「小正月」は、お正月の最後の行事。元旦または、一日から七日が「大(おお)正月」「男正月」と呼ばれるのに対し、「女正月」「骨正月」とも呼ばれます。松の内に多忙を極めた女性たちが骨休めをする日でもあり、女性だけの祝宴を催す地域もあるとか。この日は一年の健康を願って、米と小豆を炊きこんだ小豆粥をいただきます。
その理由は、小豆の赤い色。古来、中国や日本など東アジアの国では、「赤」は太陽や火、血といった生命を象徴する色であり、邪気を祓う(はらう)霊力を持つと考えられていました。そして、こうした食材を食べることで、その力を内に取り込もうとしたのです。

小豆の栄養

ここまでの話だけだと、「迷信」で片付けられてしまうかもしれませんね。しかし、科学の発達につれて小豆の成分が人体へ及ぼす働きが少しずつ解明され、その機能性が栄養学的にも立証されるようになりました。
栄養学的に言えば、小豆には必須アミノ酸がバランスよく含まれていて、ミネラルやビタミンB群が豊富。食物繊維の量はゴボウの3倍、鉄分はホウレン草の2.7倍、活性酸素を消去するポリフェノールは赤ワインの1.5~2倍とずば抜けて多く、小さな粒の中に、人間、特に現代人に必要な機能成分がぎっしりと詰まっているのです。

名は体をあらわす

漢字の小豆(しょうず)は大豆と比べた言葉で、和名は「あずき」。名前の由来には諸説ありますが、江戸時代の学者、貝原益軒は、その著書『大和本草』の中で、「"あ"は赤色、"つき"または"ずき"には"溶ける"の意味があり、赤くて早く柔らかくなることから"あずき"になった」と記しています。
赤飯に小豆ではなくササゲを使う地域があるのも、その名前と同じ理由から。小豆は煮たときに皮が切れやすいため、「腹切れする豆は切腹に通じる」と江戸の武士たちが敬遠したとかで、今も関東地方が赤飯にササゲを使うのは、その名残だといわれます。

意外と簡単な煮小豆

「豆を煮る」というと、とても手間のかかるイメージですが、こと小豆に関して言えば意外に簡単。他の豆のように一晩水に浸しておく必要もないのです。
それだけではありません。小豆を煮るときは普通、渋みを抜くために、沸騰した時点で一度煮汁を捨てる「渋切り」を行いますが、その工程も省けるのだとか。渋味の原因であるタンニンは、実はポリフェノールの仲間。おいしく食べるためとはいえ、渋切りで6割以上のポリフェノールが捨てられるのは、もったいない。そこで、「あずき博士」の異名をもつ農学博士、加藤淳さんが見出した解決策は、小豆を煮る前に、「乾煎り(からいり)」することでした。渋みの原因のタンニンは、舌にある「味蕾」に触れることで「渋い」と感じますが、180度ほどの熱を加えると分子同士がくっついて大きくなり、味蕾に触れなくなって渋みを感じなくなるといいます。

小豆の中に閉じ込める

その後、鍋に移し水を加えて30分ほど煮ますが、ここでのポイントは、加える「水の量」。小豆は自分の重さの2.2倍の水を吸うので、2倍量の水で煮れば、煮汁に溶け出すポリフェノールなどの有効成分を、余すことなく小豆の中に閉じ込められるというわけです。最初に乾煎りすることで渋みを抑えるとともに、調理時間を短縮できるので、普通なら1時間以上かかる煮小豆が30分程度で完成。煮汁がほとんどないので、サラダのトッピングにしたり、ヨーグルトに加えたり、スープやオムレツ、グラタン、かき揚げなどの具にしたりと、さまざまな料理に使えます。

小豆でダイエット?

小豆の主要な栄養素は炭水化物で、そのほとんどがデンプンです。糖質カットダイエットが言われる昨今、肩身が狭い気がしないでもありません。
ところが、小豆に含まれるデンプンは茹でることによってレジスタントスターチと呼ばれる難消化性のデンプンに変化。人の消化酵素では消化されにくい食物繊維に変化するといいます。つまり、煮小豆のデンプンはカロリーとして換算されないということ。なんだか、うれしい話だと思いませんか?

「食べる」以外にも

小豆の効用は、「食」以外でも言われています。たとえば、小豆をメッシュの袋に詰めた「小豆枕」。寝る前に冷蔵庫や冷凍庫で1時間ほど冷やすと、中の小豆がほどよい保冷剤となって、頭の熱を奪ってくれます。
逆に体を温める道具として注目されているのは、小豆を綿や麻のタオルに入れて縫い込んだ「小豆カイロ」。小豆には通常15パーセント程度の水分が含まれていて、これを電子レンジで加熱することによって出てくるわずかな水蒸気を利用するものです。水蒸気の温熱は体の深部にまでじんわり届き、すぐれたカイロ効果を発揮。使用後は、しばらく放置しておくと空気中の湿気をまた吸収するので、繰り返して使えます。

小豆の小さな粒には、驚くほどのパワーが秘められています。
まだまだ寒さが続くこの時期、小豆のパワーを味方につけて体も気持ちも温めませんか。

参考図書:『あずき博士が教える「あずき」のチカラはこんなにすごい!』加藤淳(KKロングセラーズ)

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