取り扱い注意
かつて、干しヒジキは「鉄分の王様」と言われるほど鉄分の多いことで知られる食品でした。「それは、"鉄釜"で煮ていたから」と言うと冗談のようですが、実は本当の話。釜から溶け出してヒジキに吸収された鉄分が、ヒジキ本来の成分とみなされていたのです。時代の変化につれて、食材や調理環境が変わっていくのは、よくある話。おいしく食べながら健康を保つためには、私たちもこまめに情報を更新していく必要がありそうです。今回は、食品のプロのアドバイスを参考に、日常の小さなことを見回してみました。
時代が変われば、栄養も変わる?
ヒジキの鉄分に関する驚きの事実は、「食品標準成分表 七訂(2015年版)」の公表によって明らかにされました。15年ぶり7回目の改訂でしたが、それによると、干しヒジキに含まれる鉄分が、改訂前の9分の1以下に減っていたのです。
干しヒジキは、原料の海藻を釜で煮て渋みを取り、乾燥させて作ります。以前は煮るときに鉄製の釜を使っていましたが、時代とともに釜は鉄製からステンレス製へ。そのため、ヒジキに含まれる鉄分が減ったというわけです。
切り干し大根も同様で、鉄分の量は七訂以前に比べておよそ3分の1に減少。これも、以前は鉄製の包丁で加工していたものがステンレス製の包丁に取って代わられたため、鉄分が減ったと考えられています。
鉄のフライパン+お酢
下処理のとき鉄釜で煮てヒジキの鉄分が増えたのなら、家庭で調理するときに鉄のフライパンを使えば同じ効果を期待できるのではないか…素人なりに想像していたら、プロの指南書にもありました!鉄製のフライパンや鍋でヒジキを煮ると、鉄分が最大で10倍アップするというのです。「長く煮れば煮るほど鉄分が溶け出しやすいので、じっくりコトコト煮るのがコツ」、さらに「鉄分は酸性の調味料を加えると流出しやすいので、お酢を加えると溶出率が3倍になる」とも書かれていました。
すべての食材にあてはまるわけではないそうですが、目玉焼きは鉄製のフライパンで作ると鉄分が2㎎アップ。1日に必要な鉄分量をカバーできるそうです。
その食材、どう切りますか?
食材の栄養効果は、切り方によっても大きく左右されます。例えば、タマネギ。頭からお尻にかけて縦に繊維が走っていますが、その繊維を断ち切るように繊維と垂直に切ると、細胞が壊されて酵素が働き、血液をサラサラにする成分「アリシン」がつくられるといいます。
また、トマトのゼリー部分には全体の80%のアミノ酸が含まれているとか。これを流出させてしまうと、旨みだけでなく、大事な栄養成分も大幅に減少。リコピンは半分以下になってしまうというデータもあるそうです。ちなみに、ゼリーを流出させない切り方は、トマトのお尻を上にして放射状の白い線をチェックし、それを避けて包丁を入れること。トマトの種は、この放射状の白線の上にあり、白線と白線の間で分けられたブロックごとに種とゼリーが収納されているのです。
大事なところを捨てていた
いちごのヘタ、ブロッコリーの葉っぱ、ピーマンの種やワタ…ふつうは捨てられている部分に、実は栄養成分がたっぷり含まれていることを、ご存じでしたか?
例えばイチゴ。下処理の段階でヘタを包丁で取り除く人も多いようですが、ヘタの真下の白っぽい部分やその周辺はビタミンCが集中していて甘みを感じやすいところ。包丁を使うと、その部分まで切り取ってしまいがちです。
ピーマンの種やワタも、実は栄養の宝庫。血液をサラサラにしてくれる効果のある「ピラジン」(青くさいニオイの素)は、皮よりも種やワタに多く含まれていて、含有量は皮の約10倍だといいます。「加熱すれば味や食感は気にならないので、まるごと食べて」とプロは勧めます。
同様に捨ててしまいがちなホウレン草の根元には、ミネラルやポリフェノールがたっぷり。また、ブロッコリーの葉っぱには、蕾の3倍ものポリフェノールが含まれていて、他の部位にはない抗アレルギー効果もあるそうです。
チンしていいですか?
ゆでる、蒸す、煮る、焼くなど加熱調理の方法はいろいろありますが、楽ちんなのはなんといってもレンジ加熱。カボチャやジャガイモなど、火を通すのに時間がかかる野菜には特に便利です。
カップのまま温められる手軽さもあって、牛乳の温めに使う人も多いでしょう。「レンジチン」でも、カルシウムやタンパク質、ビタミンAなどの栄養素はそれほど失われないそうですが、ビタミンB12に限っていえば、ほぼ半分に減少。牛乳の栄養分を余さず摂るためには、お鍋でゆっくり温めた方がよさそうです。
納豆は、常温で20分置いてから
健康食として、多くの家庭で常備されている納豆。納豆菌からつくられる酵素、ナットウキナーゼが、血液をサラサラにしてくれることで知られます。かき混ぜる回数を気にする人も多いようですが、それよりも大事なことは温度。ナットウキナーゼは酵素ですから、冷蔵庫から出したばかりの低温では、しっかりと働くことができません。食べる20分ほど前に冷蔵庫から出し、常温においてから食べると効果的だとか。人間で言えば、ランニング前のウォーミングアップといったところでしょうか。
私たちは、日々「食べる」ことによって生かされています。健康のために、そして食材の命をムダにしないために、些細なことでも見直していきたいですね。
参考図書:
『栄養を捨てない食材のトリセツ』落合敏監修(主婦の友社)
『その調理、9割の栄養捨ててます!』東京慈恵会医科大学附属病院栄養部(世界文化社)
『農林水産省職員直伝「食材」のトリセツ』(マガジンハウス)