森と私たちの暮らし
地域を守る神様が棲む森を「鎮守の森」と言うように、私たち日本人は昔から、森を身近に感じながら生きてきました。
日常的に森と接することが難しくなっている現代だけに、森から学ぶこともたくさんあるのではないでしょうか。今回は、森と私たちの暮らしについて考えてみたいと思います。
森をつくるには
草も花も何もないところに森をつくるには、どうしたらいいでしょう?
まず、大きな岩を置くのだそうです。大きな岩を置くと、熱くなった岩が夜の空気に冷やされて水滴が発生します。また日中も岩の陰で暑い日差しから身を守ることができます。そこに微生物が生まれ、そのうちに植物が芽を出します。虫もやってきます。小さな気候の変化をつくり出すことで、生物が生まれてくるのです。こうして徐々に時間をかけて、草が芽生え草原をつくっていくのです。
草原ができると、草木のあるところとないところとでは温度差が生まれてきます。その温度差が風をつくります。草原が広がり、その動きは何百年もかかって、遠くの海と陸とをまたぐ大きな風の動きに。その中で、海の水が蒸発して雲となり、山にぶつかり雨を降らします。水は木を育て、やがて森になります。そして森は水の貯水池となり、川をつくり出します。
森の成り立ちを支えているのは、生態系の絶妙なバランスです。
長い時間はかかりますが、「岩を置く」ことで生まれる小さな気候の変化をきっかけに、自然の力を上手に活用することで、森さえもつくっていくことが可能なのです。
さらに、山の多い日本のような地形では気候差が生じやすく、森ができやすい条件に恵まれています。私たちは、世界でもまれな季節の変化を楽しめる、自然豊かな国に住んでいるのです。
自然の知恵を今の暮らしへ
ここまでの話は、森が生まれるまでに数百年、数千年という長い時間のかかる話でしたが、この知恵は日常の暮らしの中でも活用できます。
生命が生まれるためには「小さな気候の変化」が重要なことを書きました。この仕組みは、実は、自分の家の周りでもできるのです。
例えば、ベランダや庭に、緑を植えたり石を置いたとしましょう。日陰をつくり小さな温度の変化をつくりだすことで、風が流れて過ごしやすくなるのです。昔の日本の庭園などは、こうした仕組みを見事に活用しています。夏の暑い日の玄関先の打ち水などにも、こうした効果があります。
家のつくり方も、太陽熱をうまく利用して家の中に空気の流れをつくることは可能です。また庭に樹を植えるときも、平らなところに植えるのではなく土に高低差をつけると、そこにも気候の変化が生まれ、高さに適した異なる植物が育ちます。
いかがでしょう。
自然を観察することで、もっと快適な暮らしができそうですね。
みなさんと一緒に、自然の仕組みに目を向けた暮らし方を考えてみたいと思います。