旬を味わう ―紅葉―
秋の夕陽に照る山もみじ──おなじみの小学唱歌の一節です。「錦秋」という言葉があるように、美しく色づいていく木々の葉を眺めるのは、秋ならではの楽しみ。今回は、紅葉をテーマに、目で味わう旬のお話です。
サクラもブナも、みんなモミヂ
「モミジのような手」という表現がありますが、実は植物名としての「モミジ」はないということをご存知でしたか? 「モミヂ」は、秋に色づいた木や草の葉をあらわす古語。私たちがモミジと呼んでいるのは植物名「カエデ」のことで、紅葉が美しいものの代表として、モミジという別称がついたようです。
モミヂの美は古くから日本人の関心事だったらしく、万葉集にはモミヂの歌が70首以上も詠まれています。ちなみに、万葉集ではモミヂをあらわすのに「黄葉」と書くのが常で、「紅葉」と書くようになったのは平安時代以降のこととか。
「こうよう」の仕組み
「黄葉」と「紅葉」は単に年代的な表記の差ではなく、仕組みそのものにもちがいがあります。秋になって気温が下がると、緑の色素のクロロフィルが分解されはじめ、その後、もともと葉の中にあった黄色色素のカロチノイドが現れてくるのが「黄葉」。一方、クロロフィルが分解された後、さらにアントシアニンと呼ばれる赤色色素が大量につくられるため色づくのが「紅葉」です。俳句の秋の季語には「○○もみじ」とつくものが数多くありますが、「柿紅葉」「漆紅葉」「梅紅葉」と「銀杏黄葉」「柏黄葉」「白樺黄葉」のように、「もみじ」の字を書き分けています。
紅葉の条件
木々の葉は最低気温が8℃(一説には10℃)以下になると色づきはじめ、さらに夜間の最低気温が6℃を下回ると急速に進むといわれます。美しく紅葉するにはいくつかの条件があって、まず、9月から10月の昼夜の気温差が大きいこと。そして、昼間、空気が澄んでいて葉が日光を充分に受けられること、大気中に適度な湿度があって葉が乾燥しないこと、などがあげられます。深山や渓谷で鮮やかな紅葉を見られるのは、こういった条件が整っているからなのです。
紅葉前線に異変あり?
木々の色づきが遅くなっているというデータがあります。たとえば、仙台のイロハカエデが色づいた紅葉日は、1978年では11月8日ですが、2004年では11月28日。その原因として取り沙汰されているのが、地球温暖化に伴う気温の上昇です。そういえば、旧暦9月(現代の暦で言えば、今年は10月8日から11月5日)の呼び名は「もみじ月」。昔は色づきが早かったことがわかります。このまま秋の気温が上がり続けると、紅葉しないままに落葉する可能性もあるのだとか。秋の美を象徴する紅葉にまで、環境問題が絡んでくるようです。
身近で楽しめる「草もみじ」
山から紅葉の便りが届くころ、平地でも草の葉が色づきはじめます。いわゆる「草もみじ」と呼ばれるもの。スイバ、イヌタデ、アカザ、ヨモギ......木々の紅葉のような華やかさはありませんが、よく見ると、それぞれに「いい味」を出しています。エノコログサやメヒシバなどは、道端や舗装の割れ目でも見つけられるでしょう。紅葉の名所への「もみじ狩り」もいいものですが、庭の片隅や道端で草もみじを観賞するのも、味わい深いものがありそうです。
みなさんは、どんな風に紅葉を楽しんでいらっしゃいますか?
ご意見・ご感想をお聞かせください。