定番を考える 2
昨秋のコラムでは、「日用品の定番」について、考えてみました。引き続き、「定番」について、考えてみましょう。
定番は、よく老舗の味にたとえられます。頑固親父が守り通す味、といったイメージでしょうか。しかし、ただ頑固というだけでは、味を守り通すことはできません。実はそれは、研究熱心ということなのです。
例えばお団子ひとつを取ってみても、生地や餡になる材料、水、炭、その日の天候などなど、さまざまな要素がすべて絡み合って「味」をつくります。そして、食べた人が「同じ」と感じる味に仕上げるためには、実はその裏で、常に職人技の微妙な調整がなされています。それは、機械でなし得ることではありません。
また、時代によって変化する嗜好に合わせて、微妙に匙加減を変えていくこともあるでしょう。その味の差は、もしかしたら、食べる人にはわからないかもしれません。変わったことさえ気づかせない「紙一重」の世界ですが、長いスパンで見たら、確実に変わっていることは間違いありません。定番を守るために、常に微妙な調整を行い、それをくりかえす。変えないために、小さく変える。定番として生き続けている商品は、そんな革新に支えられているのです。そうでなければ、ユーザーから飽きられてしまうでしょう。
また、定番には、適量があります。100個までなら維持できる質が、1,000個つくろうとすると維持できなくなるということも。定番としての「質」を確保できる範囲内に量を抑える。そんな抑制のきいたつくり方も、必要になってくるでしょう。
企業と定番
定番を考える時にもうひとつ大事なことは、そのスタートにあって、多くの人の支持を得ること。その道のりは簡単ではありませんが、ともかく、いったんは売れる製品、つまりユーザーに支持される商品であることが必要です。そして、ファンという固定客がつき、その人たちとの関係によって成り立つものが定番なのです。
ところが、そうした定番の多くが、時代の変遷とともに消えてなくなります。その原因の多くは、供給する側の拡大路線の選択。拡大するためには、新しいものや価格の安い商品をつくっていかなければなりません。地味な定番は、どこかに押しやられ、やがて消えていくことになります。大量生産・大量販売が定番をなくしていったということも事実です。
供給する側と使う側の関係の中で、それぞれ、変えたいもの、変えてほしくないものがあるでしょう。そんな中で、何を定番とするのか? それは、それぞれの企業の価値観とも言えそうです。これからの時代、企業はあえて「変わらないもの」を提供するという勇気も必要かもしれません。
自分の会社にとっての定番とは? ──この設問に、多くの企業は今、もう一度向かい合う時期に来ているのかもしれません。それは、「自分の企業の価値とは何か」ということを再確認する機会とも言えるでしょう。もちろん、無印良品もその例外ではありません。
みなさんは、定番について、どんな風に考え、何を望まれますか?
また、無印良品の定番としてふさわしいものは、どんなものだとお考えですか? ご意見をお待ちしています。