片道切符の旅
「旅」という言葉を聞いて、みなさんはどんなことを思われますか?
若いころ、気ままなひとり旅をした方もあるでしょう。学生時代の長い休みには、安いオープンチケットで海外へ行き、帰りの切符の期限が過ぎるまで旅をした方もいるかもしれません。
旅という言葉には、帰りの予定が決まっていない、いつ戻るかわからない、といったイメージがあります。「旅人」は、どこか知らない町から来て、またどこかへ行ってしまう人。「人生は旅」などと言われるのも、先がわからない、ゴールがわからないことのたとえでしょう。
「旅に出かけたい」という想いの底には、決まりきった日常から抜け出したいという願望もありそうです。決まった世界、決まった人間関係、朝起きてから寝るまでの似たような出来事......日々の暮らしというのは、そんなに変化に富んだものではありません。それに対して、旅はドラマです。見知らぬ景色、初めて見るモノやコト、そして見知らぬ人との出会い。仕事や家族など、いろいろなしがらみから解き放たれて自分自身に向き合うには、ぴったりのステージと言えるでしょう。
その一方で、そうした未知の世界に出かけることには、不安がつきまとうのも事実です。いろいろなことを考えると、旅に出る前は眠れない、という人もいます。
お金のことも心配です。クレジットカードがまだ一般的ではなかった時代には、いざという時のために、靴の底やお守りの中に予備のお金を隠し持っていたという話も聞きます。「帰り」の予定がはっきりしていない旅では、どのくらいの金額を持ち歩けばいいのかもわかりません。運よく旅先で仕事を見つけて、稼ぎながら旅を続けられれば、本当に自由な旅になるのでしょうが、それもなかなかむずかしいもの。そういえば、カバンひとつで気が向いたときにふらりと旅に出る「フーテンの寅さん」には、旅先でできるテキヤという稼業がありました。寅さんが国民的人気者になったのは、普通の人がなかなか果たせない旅への願望を、いとも軽々と実現しているからかもしれません。
旅は未知の世界への憧れです。それは、日常ではない新たな世界との出会いであり、日常を突き抜けたい願望とも言えましょう。そして不思議なことに、未知の世界に憧れて出たはずの旅なのに、日常である家に帰ったとき、安心感や安堵感があるのも事実です。どこかへ飛び出していきたい感情と安定した世界に戻ったときの感情、そのどちらも人間には大切なことなのでしょう。
あなたにとって、旅とは何ですか?
人生は旅のようなもの。明日なにが起きるかわかりません。誰にも不安はありますが、未知の出来事を積極的に受け容れながら、思う存分楽しみたいものですね。