夏に向かって ―風通しのよい家―
今月は「夏に向かって」というテーマのもと、「コットンの話」「干し野菜」「外ごはん」と書いてきました。風薫る5月の最終回は、「風通しのよい家」について考えてみたいと思います。
風と電気
風は電気を運んでくる――風水の世界では、そう言われることがあります。実際に電流計をもって窓を開けると、一瞬、メーターが大きく動くそうです。
昔から、「気」がよいところとは、地盤のよいところや風の通るところ。反対に、地盤の悪い湿地帯やじめじめしたところなどは、人が住むには適さないようです。地盤のよいところは、地盤の中を電気が通りやすいとも言えます。同じように、風が通り抜ける家は「気」が通る家とも言えるでしょう。
高温多湿の日本
家のつくりようは夏をむねとすべし――鎌倉時代、吉田兼好の手によって書かれた随筆「徒然草」の有名な一節です。高温多湿の日本では、昔から、夏の暑さをどうしのぐかが課題でした。その当時、庶民の家は土蔵のように囲まれた家で、とても蒸し暑かったようです。庶民の家が風通しのよい開放的な家になるのは、それから500年たった江戸時代のことだといいます。
昭和40年代ぐらいまでは、南面に縁側をおおう深い軒がある家をよく見かけました。夏の強い陽射しが、家の中まで入らないようになっているのです。開口部は大きくとられ、外側から雨戸、ガラス戸、障子と三重の戸がつけられているのが常でした。そして、北側には小さな窓があり、風が南から北の方へ抜ける仕組みです。風は体感温度を下げてくれます。さらに南側に庭の緑があれば、その中を渡ってくる風は、温度が低く下がっています。田園地帯の家に行くと、暑い真夏でも夜になると涼しい風が吹いてくるのは、「家のつくり」が生み出すものなのです。
伝統的な日本家屋は夏を中心に考えられていますので、その分、冬は寒かったことでしょう。囲炉裏や火鉢などを囲んで暖をとっていましたが、部屋の温度を保つ工夫もなされていました。開口部の三重の戸が、それぞれの間に空気層をつくり、障子は断熱の役目も果たしていたのです。
日本は南北に長い
南は沖縄から北は北海道まで、その距離およそ3,000キロメートル。南北に長い日本は、地域ごとに気候風土が異なり、家のつくり方も地域によって違いがあります。そのため一律に語ることはできませんが、九州から関東ぐらいまでの太平洋側の温暖な気候の地域では、やはり風通しを第一に考えて家をつくるのがよいかもしれません。クーラーをあまり使わなくても、風が通ることで、体感温度は低くなるものです。
風通しのよい家にするには、ひとつの部屋に2つ以上の窓をつけること。2つの窓は対面に設け、熱い空気が高い窓から逃げていくように高さを変えるなど、工夫するとよいでしょう。廊下や階段も、家全体の空気の流れをよくするために大切な場所。窓の開け方を工夫するだけでも、ずいぶん差が出てきます。
また、壁やその内部に、湿度を調節する自然素材をうまく使うのもよい方法。紙や藁(わら)、漆喰(しっくい)などは効果があるようです。かつての日本の住宅は、こうした自然の仕組みをうまく利用していたものでした。
できれば深い軒も復活したいところですが、それが難しければ、夏の暑さ対策として、「緑のシェード」や布製のタープでおおったり、太陽を遮るルーバーを取り付けたり、といった工夫もありそうです。
今年の夏は、特に電力の消費を抑えなければなりません。これを機に、自然の仕組みを利用した家づくりや環境を考えてみるのも、大事なことでしょう。それぞれの地域に、先人達の住まい方の知恵があったように思います。新しい技術を取り入れながらも、それぞれの地域に根ざした家づくりの手法が考えられるといいですね。
夏に向かって、家の風通しを考えてみましょう。家を取り巻く環境は、いま、大きく変わろうとしているのかもしれません。自然の力を利用した家づくりについて、みなさんのご意見、ご感想をお待ちしています。
無印良品の家では、「チームいま何度?」というプロジェクトを行い、それぞれの地域で、それぞれの家で、温度と湿度を計測しています。ぜひ、覗いてみてください。