夏を涼しく ―涼をよぶしつらえ―
「よしず障子」というものをご存知ですか? 和紙の替わりに、風を通す「よしず」をはった、夏向きの障子のこと。夏を快適に過ごすために、昔の人は、障子の衣替えまでしていたんですね。特に節電が求められる、この夏。先人の知恵を見習って、「涼をよぶしつらえ」を考えてみましょう。
よしずは涼感素材
「よしず」は「よし」「あし」とも呼ばれ、茅(かや、別名:ちがや、すすき)と同じイネ科の植物。いずれも、茎の部分が中空になっているので熱い日差しにあたっても温度が上がらず、雨や風にも強いところから、茅葺き(かやぶき)屋根の材料として大量に使われていました。江戸時代までは各地の水際に大量に生息していたようで、東京の「茅場町」という地名も、そのなごりとか。よしずで囲う「よしず張り」は、いまでも家の外などで日除け用に使われていますし、よしず張りの海の家は夏の風物詩にもなっています。
目隠しと風通しのために
そんなよしずの長所を障子に活かしたのが、よしず障子。夏になると、和紙の障子をしまって、よしずを張ったものに入れ替えていた時代もありました。もちろん、家中の障子をすべて取り替えるのは大変なことで、誰もができたわけではありません。それでも、家の中心の一室だけは取り替える、といった人はいたことでしょう。
昔の家には廊下がなく、部屋を通って奥の部屋に行っていましたので、風通しをよくするには障子を開けなければなりませんでした。それだけに、目隠しと風通しの両方を兼ね備えた「よしず障子」は、当時としては画期的なものだったに違いありません。
影をつくる
風を通すのはもちろんですが、よしずの特徴はなによりも、光を遮ること。その視覚的な効果も、涼しさを生み出す大きな要素です。細いよしずの間から漏れる光は、影ができることによって、光そのものを意識させてくれます。それは、明るく均一な光にはない、陰影に富んだ光。光を絞り込んでいくことで、まるでカメラのシャッターのように、光に奥行きが生まれてくるのです。
さらに、かすかに漏れてくる光からは、その奥の空間までもが意識され、部屋の広さ以上に空間の奥行きを感じさせてくれます。
このように、日本の建築には、目隠しとして生まれたものが光と影を生みだし、日本的デザインの要素として根付いているものが見られます。その代表的な例が、「格子」と言ってよいでしょう。
家の中に影をつくり、光を感じていく。さらに夏になれば、その光を遮ることで、光を意識していく。この数十年、日本の家は均質な光につつまれて明るくなってきましたが、もう一度、そのしつらえを考え直してみる時期に来ているのかもしれません。
五感で感じる涼
光だけでなく、風鈴のように耳で感じる涼しさもあります。目には見えないほどのかすかな風の動きを、耳でとらえ、風を感じる。そして、光と同じように、音が消えていくのを意識することで、風鈴の音にも奥行きを感じるのです。
暑い日に外から帰って、少し暗い家の中で光と影を意識し、そして風を感じて過ごす。風流とは、まさに、こういうものかもしれませんね。
五感で涼しさを感じるのは、日本人の美意識そのものと言えるでしょう。涼しさをよぶための小さな工夫は、現代人が忘れかけている感性をよみがえらせてくれるかもしれません。
みなさんは、涼をよぶために、どんな工夫をなさっていますか?
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