研究テーマ

夏を涼しく ―屋上庭園と菜園―

東京六本木の近代的なビルの屋上にて

高層ビルを背景に、みんなで田植えをしている写真。それだけでもちょっと驚きですが、その田んぼが実は東京六本木の近代的なビルの屋上にあると知ると、もっと驚かれる方も多いでしょう。屋上緑化の波は、ここまで来ているんですね。今回は、夏を少しでも涼しく乗り切るために、屋上庭園と菜園について考えてみましょう。

近代化と屋上庭園

積水ハウス国立サステナブルデザインラボ

20世紀の初頭、新しい時代を目指して、世界中で芸術運動が始まります。建築の分野では、近代建築運動の立役者として世界的に有名な建築家、ル・コルビジェが「住宅のテーゼ」として5つの原則を発案しました。その中のひとつが、屋上庭園です。それまで、庭は土の上にあるものでした。土は重いものです。それをあえて屋上におくことは、建築技術の高さの証明であると同時に、新しい自然観の表現でもあったに違いありません。近代化とは、あらゆるものを合理化し自然と対峙するように受け止められがちですが、その一方で、建築家たちは自然との融合を夢見てもいたのです。
その時代から約100年が過ぎようとしています。いま、都会の屋上で始まっているさまざまな展開は、人間が近代化の中で忘れてきたものを取り戻そうとする人々の想いの表れなのかもしれません。

屋上庭園・菜園は、家を暑さから守る

日本で屋上庭園の動きが活発になってきたのは、いまから15年前。「都市緑化促進法」という法律が整備され、行政でも建物の緑化推進を進めるようになった頃からです。もちろん法律の整備に関わらず、屋根や屋上を緑化すると、太陽の暑い日差しから家を守り家の中の断熱になります。周囲の温度を下げるので、地域への貢献にもなります。最近では、低炭素化や地球温暖化の対策としても有効な方法として見直されています。

屋上で自然を楽しむ

東京六本木の近代的なビルの屋上にて

庭園にするだけでなく、屋上に菜園などをつくり野菜や稲を育てるという新たな実践も始まっています。自分で育てて自分で食べるという楽しさや達成感は、人を幸せな気持ちにしてくれるもの。空き地の少ない大都市での屋上利用は、暑さから家を守りながら、同時に自然を楽しむこともできる有効な方法と言えるでしょう。
とはいえ、土はとても重いものです。今までの建物に土をそのまま載せると、その重みは建築時に予想していた設計加重をはるかに超えてしまいます。地震など災害時の懸念もあります。また屋上は風が強いため、風のあたる周囲には風に強い植物を配置していくとか、根を深く張る根野菜などの栽培にも工夫が必要です。しかし嬉しいことに、最近では軽い土が開発され、土を使わずに栽培するなどの栽培方法も進化して、いろいろな野菜が作られるようになりました。「東京野菜」と称して東京の屋上でとれた野菜を販売したり、有名レストランのシェフが自分で育てた野菜を料理に使ったりもしています。食べる人、料理する人が自ら育てることで、より丁寧に育てることができるはずです。料理直前に収穫してきて食べるというのは、現代社会では最高の贅沢。そのことによって季節を感じ、旬のものを食べるという、かつては当たり前だった感覚がよみがえってくるでしょう。季節の変化を感じ、旬を感じ、そして都会の中でも自然の営みを体で感じることのできる屋上庭園・菜園はとても魅力的です。
そしてこれらの土で覆われた建物が、夏の暑さ対策にも十分効果を発揮することは、言うまでもありません。

家の温度を下げてくれるだけでなく、楽しみもつくってくれる屋上庭園や菜園。身近な緑は、きっと今までとは違った自然との付き合い方を発見させてくれることでしょう。

みなさんも、仲間を見つけて、あるいは共同住宅の住人同士で、屋上の緑を試してみませんか。ご意見、ご感想をお寄せください。

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生活雑貨

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