研究テーマ

人と自然 ―お月見―

大気が澄んで、月の光が冴えわたる季節になってきました。9月12日は、「中秋の名月」。秋の月の中でも最も明るく美しいとされ、お月見に適しているといわれる名月です。夜長に向かう、これから。時には天空に目を向けて、月の美しさを楽しんでみませんか。

中秋の名月

単に「月」といえば秋の月をさすように、月は秋を代表する季語です。その中でも特別な月が、旧暦8月15日の夜、十五夜の「中秋の名月」。日本では昔から、この夜の月を愛でる「お月見」が盛んに行われてきました。
旧暦では1月~3月を春、4月~6月を夏、7月~9月を秋、10月~12月を冬としていたことから、8月15日は秋のちょうど真ん中。「秋の真ん中の夜に出る満月」ということで、「中秋の名月」と呼ばれるようになったといいます。

お月見は感謝の祭り

中秋の名月を観賞する「お月見」の風習が中国から日本に伝わったのは、平安時代。しかし、それ以前から、日本には月を祭る風習があったといわれます。それは、秋の収穫物を月に供えて五穀豊穣を祝い、実りに感謝する農耕儀礼としての行事。月の満ち欠けをカレンダー代わりにして農作業を進めてきた日本人にとって、月は日常生活に密着したもので、満月の夜は祭りをする大切な節目の日でした。
中でも陰暦8月15日の月は、これから始まる収穫期を前にして、その年の最初の実りを神に捧げる「初穂祭」の意味合いがあったとか。月を模した月見団子とともに、ちょうどこの時期に収穫期を迎える里芋を供えるのはそのためで、中秋の名月は「芋名月」とも呼ばれます。また、お月見に定番の「すすき」はイネ科の多年草で、稲穂の代わりに供えられるもの。その茎が空洞であることから、神の「依代(よりしろ=神霊が招き寄せられて乗り移るもの)」とも考えられていたようです。

後の月、十三夜

中秋の名月から約1ヵ月後の満月少し前、旧暦9月13日の月は「十三夜」。日本人は、古くから、十五夜と同じようにこの月を愛で、月見をしてきました。中秋の名月に対して「後の月」と呼ばれ、ちょうど収穫期を迎える大豆や栗を供えるので、「豆名月」「栗名月」とも呼ばれます。十五夜だけにお月見をして十三夜にしないのは、「片月見(かたつきみ)」「片見月(かたみづき)」と言い、縁起がよくないとされていたとか。
満月だけではなく、その前後の少し欠けた月にも美しさを感じ取る感覚は、「花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは (徒然草)」といった、日本人独特の感性によるものかもしれませんね。ちなみに、今年の十三夜は、10月9日(日)です。

月の呼び名

満ちても欠けても、月は神秘的。日本独特の感性は、新月から満月まで日々姿を変える月に、さまざまな呼び名をつけることにもつながっていきました。三日月、上弦の月、下弦の月などはよく知られていますが、満月をはさんだ呼び名もいろいろ。中秋の名月の前夜は「待宵月(まつよいづき)=翌日の十五夜を待つ月」で、満月の翌日からは日を追って次のように変わっていきます。
○「十六夜月(いざよいづき)」=『いざよう』は『ためらう』の意味で、月の出がやや遅くなるのを『月がためらっている』として付けられた呼び名→○「立待月(たちまちづき)」=立って待っている間に出る月→○「居待月(いまちづき)」=座って待つうちに出る月→○「臥待月(ふしまちづき)」または「寝待月(ねまちづき)」=月の出るのが遅いので寝て待つ月→○「更待月」(ふけまちづき)=待っているうちに夜更けになってしまう月
満月を過ぎると、夜ごとに遅くなっていく「月の出」を待つ気持ちが込められているようですね。日の出とともに起きる生活をしていた昔の人にとって、「更待月」(ふけまちづき)を待つのは大変なことだったのでしょう。

月と生活が密着していた昔の人と比べて、現代の私たちは、どのくらい月を眺めているでしょう? 月を観ることは、自然のリズムや神秘に思いをめぐらせること。緑の少ない都会に住んでいても、空を見上げ、月を意識することで、自然のリズムにつながっていくことができるかもしれませんね。

みなさんは、今年の名月をどこで、どんなふうにご覧になりますか?

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム