人と自然 ―自然に寄り添って暮らす―
「パーマカルチャー」という言葉をご存知ですか? 「パーマネント=永久」と「アグリカルチャー=農業」をかけ合わせた造語で、自然の仕組みを見習い、暮らし方全般を見直していくという、生き方の体系的な仕組みを提唱した考え方です。今回は、「自然に寄り添って暮らす」そのスタイルに、目を向けてみましょう。
パーマカルチャーを提唱したのはオーストラリアのビル・モリソンという生物学者。実践家でもある彼は、自らが理想とする暮らしを実践し、世界に多くのパーマカルチャーリストをつくってきました。その後、彼の生徒や考え方に共鳴した人たちが世界各地に村をつくり、コミュニティーを運営。そうした村は「エコビレッジ」と呼ばれ、東京でもその国際会議が開かれる世界的な動きとなっています。
自然を生かす農法
パーマカルチャーの骨格をなしているのは、農への関わり方です。現代農法が効率よく多くの収穫物を得ることを目標としているのに対して、彼らの農法は、そこそこの収穫量で満足し、あまり多くの手間をかけずに「自然」に任せます。農を、「なりわい」ではなく「暮らしの一部」とするためには、手間をかけないことが大事だからです。「自然農法」と呼ばれるこの農作物の育て方は、日本の古くからの農法を取り入れたものだとか。また多様性を重視して、ひとつの畑にたくさんの種類の農作物を植えているのも特徴で、それによって連作障害を防ぎ、永続的な収穫ができるのです。
循環型の社会を目指して
畑だけでなく、生活環境も「自然の仕組み」を考えながら整えられます。たとえば生活排水は、循環させて畑で浄化し、微量栄養素を土に戻していく。そして、濾過されたきれいな水は、また川へ戻していきます。家のつくりは、風が通るように。太陽熱は太陽熱温水器などに活用し、風力では発電を行うといったエネルギーの自給自足も目指しています。
食やエネルギーの自給自足を前提にした、「循環型の社会」。その実現のために必要なコミュニティーをつくり、さらには経済の自立もできるような仕組みもつくっています。コミュニティー内で使われるコミュニティー通貨もそのひとつで、労働力の交換をスムーズに行えるような仕組みの提案と言えるでしょう。1970年代後半にはこうした考えかたが世界中に広まり、それ以降、各地でさまざまなエコビレッジが生まれました。
こうした自給自足のコミュニティーでは、コミュニティー内の全員が豊かに安心して暮らせることを目指します。「分け合えば足りる。奪い合えば足りなくなる」という言葉がありますが、自給自足はまさに、分け合うことを前提とした社会と言えるでしょう。
自然を感じる
エコビレッジにはさまざまなスタイルがありますが、その中には、スピリチュアルな面を大事にしたコミュニティーも多くあります。自然の出来事や変化から、その仕組みを習い、暮らしの中に取り入れていこうとするものです。自然の仕組みに習うことは、自然をよく観察すること。観察を深めていくうちに、人間の力ではどうしようもない力を感じたり、人間が自然の一部であることを実感するのでしょうか。自然をひとつの生命体としてとらえるとき、それは完全な循環社会であり、部分と全体がつながっています。人が自然を見つめるとき、自然の仕組みから啓示をうけるのは当然のことかもしれません。そうした感性は、近代社会の中での経済の仕組みやテクノロジーの進化と引き換えに、人間が失ってしまったもののひとつと言えそうです。
近代文明の技術は、自然と向き合い対峙することで発展してきました。そこで得た快適性は、一方で、人間が本来持っているはずの「自然を感じる感性」を退化させてしまったともいえるでしょう。
パーマカルチャーが日本の農業や暮らしをお手本にしたように、かつての日本人が持っていた自然感や日本人の暮らし方は、今や世界の暮らし方に大きな影響を与え得るものかもしれません。自然の音や風や光を感じ、自然に寄り添って暮らす。そして、自然の仕組みを通して社会全体の仕組みをもう一度考えてみる。そんな時期に来ていると言えそうです。