研究テーマ

リサイクルについて

環境問題を考えるとき「バックキャスティング」という言葉が使われますが、みなさんは耳にされたことがあるでしょうか。1989年、スウェーデンの環境NGO「ナチュラル・ステップ」の創始者であるカール・ロベール氏が提唱した考え方で、「こうありたい未来」「こうあるべき未来」の姿をまず定め、そこから逆算して、今なにをすればいいのかを考え実行していこうというもの。
環境問題は、現状の課題をひとつずつ解決して積み上げていくやり方(フォアキャスティング)では遠回りになりがちですし、企業の利益と社会の利益が必ずしも一致しないという局面も生まれてきます。目指すべき社会を国全体が共有し、そこに到達するためには、どうしたらいいかと考えたのです。

そこで目指す未来の到達点は、「循環型の社会」をつくること。そのためには、有限である地球の資源を使わずに、今あるものを再利用し、人間以外の生命体が行っているような自然循環を目標としています。自然界では、生きているものは他の生物の食料となり、排泄物は植物などの栄養素となり、それぞれが他の何かの役に立ち、不要なものはいっさいありません。
しかし人間がつくる人工物は、大量のゴミを生みだし自然分解することもありません。東日本大震災の被災地では、津波で田畑に瓦礫が運ばれ、その中の人工物が農地復興の障害になっているという話も聞きました。そして、それら人工物をつくるためにも、多くの化石燃料のエネルギーが使われてきたのです。

そうした社会は未来においては成立し得ないと考えたときに、バックキャスティングでは「どうしたら、化石燃料を使わないで暮らせるか」「ゴミを出さないで、いかに暮らすのか」と考えます。
これらを考えるときに重要なことは、地域というエリアを設定することです。ものの循環は一人ではできないので、エリア内での循環を考え、その中で再利用やゴミの問題を解決していくことが早道。運搬のエネルギー消費を最小限に抑え、そのエリアに住む人の間で循環できるような最適範囲を決めていくのです。

その一例としてご紹介するのは、100%リサイクル都市の定義を議論し、ゴミを地域内で再利用していく試みを始めた、東京・丸の内での取り組みです。「33ラボ」と名付けられたそのプロジェクトは、企業の枠組みを超え、作り手と使い手の境界線も越えて、地域全体として、ものの循環を進めていこうというもの。まずはペットボトルから再生ポリエステルをつくり、それをバッグとして再利用する取り組みのスタートを切りました。他にも、携帯電話や電気製品から出る金属の再利用、紙・木材などの再利用、地域内でのオフィス家具や内装材の再利用、廃熱や廃油などを利用するエネルギーの再利用など。「もの」「エネルギー」「サービス」といったすべてを未来の暮らしに向けて考えることで、さまざまな見直しができるといいます。
そして、エリアを限定することで、そこに住む人々には「目の前の出来事」となり、それに関わることで人々の意識の変革が早まります。また、一企業では持続可能性を担保できない環境商品やサービスも、エリア全体のコストとして再分配していくことができるでしょうし、そこに新たなサービスを提供する企業も生まれてくるに違いありません。一方では、不要なものを低コストで分解する化学やバイオテクノロジーも発達するでしょう。無印良品が2009年から参画している、綿製品を分解してバイオエタノールにしエネルギーとして再利用する取り組みなども、ひとつの成功事例と言えそうです。

今、私たちが考えなければならないのは、ひとりひとりの意識や活動が地域や社会全体の課題と一致し、そのゴールに向かって総体として動くということです。そのためには、既存のビジネスの仕組みを変えなければならないこともあるでしょう。いつの時代も、発展と進化とは古い仕組みを解体することから始まるもの。これからは、ものを生み出すことで発展するという考え方から、分解・再利用という概念を組み込んでいく時代になったのだと思います。

地域全体でのリサイクルへの取り組みについて、みなさんはどのように思われますか。ご意見、ご感想をお聞かせください。

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生活雑貨

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