研究テーマ

春の訪れと復活祭

万物が冬の深い眠りから目覚め、新しい始まりを迎える春。草木が芽吹き膨らむように、私たち人間の心も陽光を浴びて膨らんでいくようです。春の喜びを祝う行事は世界各地にありますが、ヨーロッパの復活祭は、その代表的な例と言えるでしょう。

キリストの復活を祝って

復活祭は、キリストが十字架にかけられてから3日後に復活したことを祝う行事で、「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」と決められています。もともと太陰暦(月の満ち欠けによって定められた暦)にしたがって決められた日であるため、現代の太陽暦では年によって日にちが変わりますが、今年は4月8日。その63日前の七旬節に始まり、キリスト教の世界では、復活祭を中心にさまざまな行事が行われます。特に四旬節(日曜を除いて40日前から)の期間中は、キリストの受難と死を思い返し、悔い改め、試練・修養・祈りの時として過ごす節制の期間。この40日は、キリストが荒野で断食をした40日間に因んでいて、肉・卵・乳製品・油などを断ち、贅沢な食事を控えて復活祭を待つといいます。

春の到来を祝って

春を待っていた植物たちがいよいよ花開き、豊かな一年が始まるこの時季。春の訪れを喜び、祝いたいという思いは、すべての人々に共通するごく自然な気持ちでしょう。復活祭はたしかにキリストの復活を祝う行事なのですが、それ以前からあった土着の季節の行事と融合してきたようにも思われます。実際、「復活祭」をあらわす英語の「イースター(Easter)」やドイツ語の「オースタン(Ostern)」は、ゲルマン神話の春の女神「エオストレ(Eostre)」の名前やゲルマン人の用いた春の月名「エオストレモナト(Eostremonat)」に由来しているとか。8世紀の教会歴史家の記録には、ゲルマン人が「エオストレモナト」に春の到来を祝う祭りを行っていたとあり、色をつけた卵(イースター・エッグ)や多産の象徴であるウサギ(イースター・バニー)など復活祭のシンボルとされているものは、このゲルマン人の祭りに由来すると考えられています。 卵が用いられるのは、殻を割って生まれ出る生命力を表現したもの。また、復活祭の日を「満月の日の後」と定めているのは、月の満ち欠けを生命再生の象徴ととらえ、生命の源が月のエネルギーに呼応しているとする考え方と無関係ではないでしょう。太陽暦を採用する西洋社会で、いまでも太古の昔の月の暦に従って日にちを定めているのは、興味深いところです。

季節とつながる

この時期、誰もが新たな季節の始まりに心躍ります。気持ちが明るくなり、希望が訪れる季節、それが春です。受難の63日は、季節で言えば冬。食べ物も少なく、来たるべき春に備えて準備する期間です。そして長く暗い冬が終わり、花が開き、食べ物も豊かになる。その喜びは、宗教を超えて世界中に共通する感覚でしょう。復活祭は、キリストの復活を祝う行事であると同時に、春という季節がもたらすあらゆる生命の復活を祝う行事とも言えそうです。
人々は太古の昔から、自然のリズムに合わせて暮らしてきました。日本にも、季節の節目ごとに自然とつながり、その生命力を取り込む「節句」があります。国や文化は違っても、人の営みは、自然との関係性において同じような習慣を生み出していくのでしょう。

ひときわ厳しかった冬もやっと終わり、日本では桜前線とともに、春の喜びも北上していきます。みなさんは、新しい春をどんな気持ちで迎えられますか?

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム