研究テーマ

家具の型紙

オランダの家具メーカーdroogの試み2011年ミラノサローネにて

リフォームと型紙の時代」、「味の型紙」と、このところのコラムでは型紙について取り上げてきました。その中で、型紙とは「何かをつくるときの基本となるもの」または「それがあることによって誰もが自分でつくることができるようになるもの」といったことを書いてきました。今回は、家具の型紙について考えてみたいと思います。

メーカーが制作図を公開する

プロダクトデザイナーEnzo Mariがフィンランドの家具メーカーartekのためにつくったセルフビルドシリーズのひとつ

家具をつくるには、デザイナーが描くスケッチや設計図だけでなく、それをもとにして実際につくるための制作図が必要です。洋服をつくるとき、デザイナーが描いたデザイン画をもとに、パタンナーが型紙をおこすのと同じです。
今までの「常識」で言えば、家具会社にとってもデザイナーにとっても、そのつくり方を公開するなどは、もってのほかでしょう。しかし一方で、もし型紙が公開されれば、ものの持ち方や買い方が変わるのではないか、という新しい時代のビジネスモデルへの可能性の模索も始まっています。

ヨーロッパでの新しい試み

世界各地に市民のための工房をつくろうという組織FABLABとオランダの家具メーカーdroogとの共同実験、2012年ミラノサローネにて

ヨーロッパでは、ある家具会社がウェブ上に型紙を公開して、ユーザーが自由にダウンロードできる仕組みを始めています。ユーザーはその型紙を手に入れることによって、自分で家具をつくることができるのです。まだ試みの段階のようですが、こうしたサービスを考えだしたことは、少なからず話題を呼びました。第一線のデザイナーがつくった質の高いものが、無料で公開されているということで話題になったのです。
そしてそれは、熟練した技術や特別の工具がなくても、誰でもが加工したり組み立てたりできるようなつくり方を基本としています。工場で加工するような技術は使えないのですから、当然といえば当然でしょう。こうした与件は、これからのデザインのあり方を変えることにもなりそうです。

無駄をなくす

同上、同じおおきさの三角形の板の組み合わせでできる

さらに必要なことは、材料を有効に使うこと。なるべく無駄を出さないよう、1枚の板から、たくさんの部材をつくり出すのを前提にしていくことが大事です。市場に多く流通している、3×6(サブロク)版と言われる91センチ×182センチの板1枚からできれば便利でしょう。たとえば1枚の板から家具をつくるといったプロジェクトはできないだろうか──くらしの良品研究所では、今、そんなことを考えています。
ホームセンターに行って、型紙を渡して材料を切ってもらう。家で少し加工して組み立て、塗装をするなど自分でカスタマイズもできるようにしていく。もちろん、家にある材料を使うことだって可能です。

買うから、つくる時代へ

これからは、ものを買う時代から、自分でつくる時代になっていくのではないでしょうか。かつてはものが高いから、買えないから、自分でつくっていたという側面もありますが、今おきつつあるのは、買うよりも自分でつくることのほうに価値を見出すという動き。自分でつくって、自分でメンテナンスする時代が来ようとしているのです。その根底には、自分の手を使って自分のものをつくりだすことから離れ過ぎてしまった生活への反省もあるでしょう。道具や技術が進化して、楽につくれるようになったことも、そうした動きを後押ししているかもしれません。
そしてものづくりに関する企業の役割も、完成品を売るのではなく、できるだけユーザーが参加できる余地を残したり、またはユーザー自身が自分でつくることをサポートするというような方向になっていくともいえそうです。
しかしこれは企業のビジネスやデザイナー達にとって大きな変革で、こうした時代にビジネスをどう成り立たせていくのか、まだはっきりと見えてきてはいません。しかし、時代は変わり、使い手が自らつくる時代がやって来ているのです。

家具の型紙について、みなさんは、どんな風に思われますか?
ご意見・ご感想をお寄せください。

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム