こたつで、ぬくもる。
夏の間は抱き上げても腕からすり抜けていく猫が、冬になると向こうからすり寄ってくる──猫を飼っている人から聞いた話です。空気が冷たくなるとぬくもりが欲しくなるのは、猫も人間も同じ。温度計で計れるあたたかさだけでなく、人の近くで人のぬくもりも感じていたい季節になりました。そろそろ「こたつ」の出番です。
日本の暖房
石油ストーブもエアコンもなかった時代、日本の暖房は囲炉裏や火鉢、こたつが主流でした。機密性の低い日本家屋では、部屋全体をあたためるより身体そのものをあたためるほうが手っ取り早いということもあったのでしょう。中でもこたつは、布団を使うので機密性が高く、足や下半身、時には全身をあたためるのに有効でした。当初のこたつは炭を燃料としたもので、「電気ごたつ」が売り出されたのは昭和32年(1957年)。これを機に暖房革命が始まります。まず石油ストーブ、つづいて電気やガスのストーブ、そしてセントラルヒーティングから床暖房へ。そんな中で囲炉裏や火鉢、炭燃料のこたつは姿を消していきましたが、電気ごたつだけはいまなお人気のある暖房器具です。コンセントさえあればどこでも使える手軽さや、エアコンなどに比べて電気代が安く済むこと、そして直接的なぬくもりの心地よさが受けたのでしょう。
電気のこたつ
とはいえ、初期の電気ごたつについては、使う側に「電気を食うもの」という意識がありました。「こたつから出るときはスイッチをこまめに切るように」「布団がめくれ上がったままだと熱が逃げるので、こたつを出たら布団を押さえておくように」 年配の方なら、子どものころにこんな注意をされた経験があるはずです。こうしたことをあまり意識せずにこたつを使うようになったのは、いつの頃からでしょう。もしかしたらそれは、私たちが「電気はふんだんにあるもの」という感覚で暮らすようになった時期と符合しているかもしれません。その証拠に、東日本大震災を機に節電意識が高まってからは、「日中は電気ごたつのスイッチを切って毛布にくるんだ湯たんぽを入れてあたたまる」という人の話も聞きました。
上は衣服で
腰から下だけをあたためるこたつは、上半身が寒いという欠点があります。でも昔の人は、室内で「着込む」という知恵で、その不便をしのいできました。綿入れ半纏やちゃんちゃんこなどは、そうした中から生まれた衣服といえるでしょう。しかし家庭の暖房がこたつからエアコンに切り替わるにつれて、私たち現代人は、衣類を重ね着して暖を取るというごく基本的なことすら忘れがちでした。そして、昨年の冬は東日本大震災後の初めての冬。昔ながらの綿入れや室内用の薄手ダウンジャケットなどが多く売れたのは、現代人の意識が変わりつつあることのあらわれなのかもしれません。
人のぬくもり
こたつという「場」から生まれる心理的なぬくもり効果も見逃せません。ひとり用のミニこたつは別にして、こたつの周りには人が集まります。吸い寄せられるように家族が集まり、集まってぬくもりを分かち合うことで、さらにその場があたたかくなる。ほんわりとしたそのぬくもりは、家の中の「陽だまり」といってもよいでしょう。こたつであたたまっているように見えて、実はそれは、人と人があたためあっているのかもしれません。かつて、寺院や武家では客用の暖房は火鉢、家庭用の暖房はこたつと使い分けられていたとか。人と人の距離が近くなるこたつは、暖を取る場であると同時に、くつろぎの場でもあったのでしょう。そう言えば、内弁慶と同じ意味で、「こたつ弁慶」という言葉もあるようです。
家の中にこたつを置くことは、家の中に一ヵ所、家族があたたまれる陽だまりをつくること。みなさんは、「こたつ」をどんな風に使っていらっしゃいますか? ご意見、ご感想をお聞かせください。