DIY・自分でつくる住まい
リノベーションで住まいを快適にしたい──多くの人が望むことですが、なかなか思い通りにはいきません。特に賃貸住宅の場合は、出て行くときに元に戻すという「原状回復義務」がネックになり、リノベーションはできないのが普通です。ところが、こんな「常識」をくつがえして、賃貸の家を、しかも自分で、リノベーションした女性がいます。
戻すことを考慮して
今回ご紹介する久米まり子さんは、賃貸住宅のそんなルールを知った上で、少しでも快適に暮らすためにはどうしたらいいだろう、と考えました。そして出した答えは、「あとで元に戻すことを考慮して施工する」というもの。壁を貼り替えるにしても、下にシートを貼ってやれば、元に戻すときはシートごとはがして簡単にできます。床は畳の上にただシートを置いただけ。そんな簡単なことでも、徹底してすべてに手を加えていくと、部屋の雰囲気はこんなにも変わるのかと驚かされます。そんな工夫を重ねて完成したものは、プロ顔負けの仕上がり。古い感じをうまく生かしながら、器用に完成させています。何でも人に任せてしまう時代ですが、自分でやろうと思えばいろんなことができてしまうのです。
自分でつくる
久米さんは、それまでインテリアなどに関わったことのない普通の女性です。建築雑誌を見ながらいろいろ考え、こうしたいというイメージをスケッチし、ホームセンターにも行って相談しながら進めたといいます。
ここで重要なことは、誰かに頼むのではなく、「自分で」すること。「自分でつくったものなら、愛着が湧いてくるし、その後のメンテナンスで手を加えるときも簡単にできる」と久米さんは言います。
久米さんのこのリノベーションは、住宅公団が注目するところとなりました。ちょうどそのころ、公団は「出て行くときに元に戻さなくていい」という新しい仕組みの賃貸住宅を考えていました。どうせ前の居住者が退室したあとにきれいにするのであれば、新しい入居者に好きなようにリノベーションしてもらおうというもの。しかも、リノベーションの費用を新しい入居者が負担する代わりに、工事期間中3ヵ月分の賃料はタダになるという画期的なDIY住宅です。とはいえ、初めての試みです。そこでどんなことができるのか、なかなかイメージしにくい面もあるでしょう。そこで、DIYのリノベーションで話題になった久米さんに見本をつくってもらうことにしたのです。
時間をかける
自分でやってみたいけど、時間がない、忙しい。多くの人は、そう思うかもしれません。しかし、なぜ忙しいのでしょう? その理由の多くは、仕事に時間を割くためです。収入を得ることに主眼を置き、仕事に時間を費やしただけ、自分の暮らしにかける時間は少なくなります。
しかし、ここでご紹介した久米さんは、収入を増やすことではなく、「今ある収入の中で、できること」を考えました。家選びも、「古くて駅から遠い代わりに格安」という賃貸住宅を見つけ、自分で手を加えることで暮らしの豊かさを追求しているのです。家だけではありません。料理でも裁縫でも、自分でできるだけ手間をかけてみる。そんなふうに目の前のことを大切にしながら、自分の暮らしを楽しんでいるようでした。
本来、暮らしとは、「ここからは仕事、ここからは遊び」と区切られるようなものではなく、仕事も楽しみもすべてが入り混じって成り立っているものではないでしょうか。これまでは仕事だけに邁進した時代ですが、そろそろもう一度、足元の自分の暮らしを見つめ直すことが必要なのかもしれません。そのためには、今まで自分がやっていたことの領域を少し広げて、「自分でできること」を探してみること。そして、やってみることです。そこに豊かさを手に入れるヒントがあるように思います。
写真でご紹介したものは、久米さんが手がけたUR団地DIYのモデルです。かけた費用は25万円、かけた時間は一日3時間で18日間、延べで54時間。大きさ45平米の小さな家のリノベーションです。
みなさんも、ご自分でできるところからチャレンジしてみてはいかがでしょう。
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