左利きの道具
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ニュートン、エジソン、アインシュタイン、夏目漱石、正岡子規、梅原龍三郎、坂本龍一、王貞治 この人たちの共通点は何でしょう?──実は、みなさん左利き。アメリカの歴代大統領にも左利きが多いそうです。左利きには天才や芸術家タイプが多いと言われますが、なんとなくうなずけますね。とはいえ、少数派ゆえに不便を強いられることも多いのが左利きの人たち。今回は、左利きの道具について考えてみましょう。
利き腕の自由
左利きの割合は全人口の8%~15%といわれています。地域や民族でその発生率に大きな差異はないといいますが、欧米に比べて日本では少ないように感じるのは、矯正されることが多いからかもしれません。
以前、左利きの人にインタビューしたとき、「すべて左手を使うけれど、左利き専用のものは一切持っていない」と答えた人がありました。20代のその女性は、「幼いころから、あらゆる場面で右利き用を工夫して使いこなす努力をしてきた」といいます。その理由は、「右利き社会では職場や出先で常に左専用グッズがあるわけではなく、そのことで後ろ指を指されることに耐えられない」から。現実に対応しようとする積極性や努力は称賛に値しますが、人と利き腕が異なることに後ろめたさを感じさせるような空気がその社会にあるとしたら、それはちょっと寂しい社会だと思いませんか? 画一的な教育を押し付けられず個を大切にされて育ったという意味で、「左利きの人がうらやましい」と言う人もいるほどです。左利きの人が左利きのままでありのままに生きていける。そんな社会を後押しするのが、ストレスなく使える道具の存在なのかもしれません。
左利きの不便
世の中のもののほとんどは、右利き用に作られています。左利きの人にとっては、あらゆる場面で左右が逆。中でも、ネジやキャップの開閉、ワインのコルク抜きなどの「ひねる」行為は、いかにも大変そうです。
他にも不便を感じるものは、ハサミ、定規、カッター、缶切り、片刃包丁、ビーター、レードル、ピーラー、急須、がま口、カメラなどなど。扇子はあおぐたびに閉じてきますし、ババ抜きをするときは右手でトランプを広げると2箇所しかない角の数字と記号が見えなくなります。また、ボールペンが使いづらいという人も多いようです。文字を書くとき、多くの言語では左から右にペンを動かしますが、左手で文字を書こうとすると、左から右へとペン先を押し出すようなアクションに。一般的に普及しているボールペンはペン先のボールが滑らかに回転することでインクが出る構造なので、左手で押し込むようにペンを動かすとボールが滑らかに動かないのです。
道具だけではありません。「日常生活で一番ストレスに感じることは?」と左利きの人にインタビューしたところ、多くの人が「駅の自動改札機」と答えました。たしかに自動改札機は、タッチパネルと切符の投入口が右側にあります。左手に定期券や電子マネーを持って改札を通過しようとすると、腕をクロスさせなければなりません。考えごとをしていると、つい隣のレーンにタッチして扉に挟まれることもあるとか。毎日のことだけに、そのストレスは大きいかもしれません。
専用と共用
日常的に使うもので左利きの人が不便を感じるのは、文房具とキッチン用品が多いようです。ところがこの二つ、性質が大きく異なります。
文房具は本来パーソナルグッズで、家庭内に複数個あってもいいものです。左利き専用のものを作れば、ある程度解決するでしょう。
一方、キッチン用品の多くは家族で共用するものです。週末はご主人が料理をするなど複数の人が使用する場合、右利き用と左利き用2個ずつあっても置き場所に困ります。缶切りやワインオープナーなどのように不便さは感じるものの、使用頻度が少なければ我慢できる範疇のものもあるでしょう。この領域では、おのずと、右利きでも左利きでも使えるユニバーサルなデザインへの要望が高まります。
通販サイトで「左利き」と検索すると、左利き専用のグッズが数多く売られています。しかし本来は、専用にしなくても、すべての人に使いやすいデザインや機能というものがあっていいはずです。実際、2012年に実施した「左利き」のアンケートでは、約5000名の方からご回答とご要望をいただき、その多くは「シンプルでユニバーサルなデザインのものを開発してほしい」というものでした。
ユニバーサルデザインとは、「すべての人のためのデザイン」を意味し、男女や年齢の差異、障害の有無などにかかわらず、最初からできるだけ多くの人が利用できるようにデザインすること。左利きの人に使いやすい道具を考えることは、すべての人にやさしい道具を考えることにもなるでしょう。
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[関連サイト]
くらしの良品研究所 > プロジェクト > ハートフル・左利き
プロジェクト「ハートフル・左利き」 > 左利きについてのアンケート(ステーショナリー編)結果報告
プロジェクト「ハートフル・左利き」 > 左利きについてのアンケート(キッチン用品編)結果報告