"量り売り"という仕組みのお店 ─ゴミを出さない町の実践─
四国の小さな町に、すべての食料品の量り売りを目指すお店があります。徳島県上勝町の上勝百貨店。ここでの買い物は、詰め替え用の容器を持参して、必要なものを必要なだけ購入するという方法です。そして買い物袋は、地元のおじいちゃんおばあちゃんがボランティアでつくった新聞紙の袋という徹底ぶり。ゴミになるようなものは使わない、売らない。そして買う人も、そうしたものを持ち帰らないというのです。
上勝百貨店がオープンしたのは、今年の1月。店内では、塩、砂糖、醤油、味噌などの調味料はもちろん、小麦粉やパスタ、お茶、ドライフルーツ、香辛料、オイル、干し野菜、地元の人が作ったお惣菜まで、約100品目がおしゃれな容器に入れられて量り売りされています。容器を持参して必要な量だけを購入すれば、包装ごみの削減になりますし、余らせて捨てるといった無駄もありません。二重にゴミを減らせることになるのです。
こんなお店ができるには、それだけの背景がありました。この上勝町は、今から10年前の2003年秋、日本初の「ゼロ・ウェイスト(zero waste)宣言」をしています。ゼロ・ウェイストとは、出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそも「ゴミを出さない」という考え方。ゴミの焼却や埋め立てがもたらした資源の無駄使いと環境への悪影響を認識し、社会の仕組み自体を変えていこうというものです。
ゴミを出さない社会をめざすために、上勝町では、町の回収場所にみんながゴミを持ち寄り、家庭から出るゴミを34種に分類しているといいます。個別でゴミを回収するのに比べれば圧倒的にコストが下がるだけでなく、徹底して分類すればゴミも再生可能な資源になるからです。
「上勝町資源分別方法」という一覧表を見ると、分別のための注意事項がこと細かに記されています。食品トレ―は白いものと色柄ものとに分け、洗った上で出すこと。その際、紙や金属、生モノが混入しないように。古紙類を束ねるのは、ビニールひもではなく紙ひもで。食用油は必ず漉してから。ペットボトルはフタとラベルを外し、フタも洗って出す
といった具合。こうして分類されたゴミは、もうゴミとは言えない別物になっていて、それぞれの専門業者が無料で引き取りに来るといいます。
もちろん、プラスチック類や化学繊維を使うこともあるかもしれませんが、そこでも強い決意があれば、「再生素材だけを使う」という選択肢もあるでしょう。世界の化石燃料はもはや限界に達し、いずれなくなるのは目に見えています。まだ少しでも資源があるうちに、「新たな化石燃料は使わない」という仕組みをつくる必要があるのです。そしてまた、ゴミを出さないという意思は、暮らしの質そのものを変えていく力もあるように思います。今あるものを大切にして、必要なものを必要なだけ買うこと、無駄のない生活を心がけることは、今までの大量生産・大量消費の仕組みから、人とモノとの新たな関係をつくり直していくようにも思うのです。
この上勝町は、「葉っぱビジネス=つまものビジネス」で地域を活性化させた町としても知られています。日本料理を美しく彩る季節の葉っぱや花、山菜などの「つまもの」を、首都圏や京都などの料亭に卸しているのです。人口2000人を切るこの町で、町の半数近くを占めるお年寄りが取り組めるビジネスはないかと模索した結果、軽くて地元にふんだんにある山の幸に商材としての価値を見出し、スタートさせました。現在は200件の家がこの活動に参加し、中には年収1000万円を超えるおばあちゃんもいるとか。
30年近くも前にこうした新たなビジネスを始めたのも、ゴミを出さないという活動を行っているのも、暮らしへの高い意識があればこそでしょう。
ゴミの回収にかかる費用は、日本全体で4000億円とも5000億円とも言われます。そんな中、上勝町の取り組みを知ると、私たちは、自分でできることがもっとあるのではないかと気づかされます。そして、供給側の「ゴミを出さない」という強い決意に共感された方も多いでしょう。田舎の小さな町が、これからの日本の最先端の意識をつくっていくのかもしれません。
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