研究テーマ

ジブンデ やってみる

切り放しで使える布を使うエプロン図面(型紙)

DIYの頭文字がdo it yourself のライフスタイルとして、日本に紹介されたのは1970年代初頭からのこと。まず日曜大工の専用語のように受け入れられましたが、今では衣食住すべての局面にわたって使われるようになっています。ここでは「自分でする」ことについてのさまざまな考え方や表現をとりあげてみたいと思います。

DIY のスピリットから

仕上がりのエプロン。提案はニコレッタ・モロッツイさん。

1960年代のヒッピーやパンクの動きもふくめて、既成の社会への異議申し立てを行動に移す若者が社会を揺るがした時代。"カウンターカルチャー"と総称された文化の波は、生活改革のオピニオンリーダーを輩出しました。その中で最も強い影響力を持つとされてきたのが「ホールアース・カタログ」(全地球カタログ)の出版人、スチュアート・ブランドです。彼は今なお時の人で、アップル社社長のスチーブ・ジョブスが引用したブランドの言葉はジョブス逝去の際の話題として世界中を駆けめぐりました。
「ステイ ハングリー、ステイ フーリッシュ」というその一節は、青春だからこその渇望の思い、無謀と見えることのできる勇気、をずっと持ち続けようというブランドの呼びかけで、同時代の意識ある人々の心情を象徴しています。また1971年版のカタログが近年復刻され200万部の完売で注目を集めました。
「ホールアース・カタログ」は現代のソシアルネットワークの先駆けと言われますが、奨めたい商品情報や地域案内など足を運んで緻密に集めるしかないニュースを市民が投稿して作りあげた背景があります。
DIYは時代や環境の変化によって、新しい提案が生まれたり、個人やコミュニティによってさまざまな解釈が加えられたりしています。ただ、根元にあるのは生活や社会をより良く変えていこうというDIY強調時代のスピリットだと思います。

ものづくりの段階で

簡単なニットのマフラー。提案はニコレッタ・モロッツイさん。

この夏"2030年の「心豊かなライフスタイル」を考える"というテーマのコンテストが催されました。サブタイトルが「未来のあたりまえを考える」と続きます。(モノづくり日本会議)そして大賞に選ばれたのは[ハーフメイドのものづくり]でした。大阪市在住のデザイナー、濱本庄太郎さんの提案で「個人のニーズが多様化し製品への要求も千差万別の成熟社会で如何に環境負荷を少なくしていくか」を考え、製品を最低限の機能を備えた半完成品(ハーフメイド)とし、残りはユーザーである購入者が自分のニーズにあわせてつくりあげるというものです。これは、生産者の決断次第で使い手が自分でやれることを引き受けるという時代の到来を示す画期的な提案と言うことができます。コストの見直しや、サービス過剰の完成品を市場に出さないなどの、時代を画する考え方に立ち、企業の生産スタイルの再考を促す提案となっています。
また消費者にとっては残りの部分を楽しみながら作り、自分一人しか持てないオリジナルなものを所有する喜びが得られることになります。

do it ジブンデ

無印良品のスタンプを押した自分だけのノート。

自分で何かを作ってみる、すでにあるものに自分なりの何かを加える、自分の印をつける、などの行動はもうどの国の生活にも浸透しています。
無印良品では、2004年と2005年にミラノの大学生の提案を有楽町ATELIER MUJIで発表しました。NABAデザイン大学、ニコレッタ・モロッツィ教授のゼミの「既にある商品に自分の目と手を加えるDIY」という主題に立ち、基本的な素材と使用概念から生まれたMUJI製品は、持つ人のアイデアを加えるのにふさわしいという考えから始まっています。
そして日本発のプロダクトだから日本語を使いたいとのミラノ側の強い希望から「ジブンデ」のタイトル入りとなったのでした。
作り手(企業、生産者)と使い手(消費者、生活者)とのコラボレーションはこれからますます大事なテーマになっていくと考えられます。また、作り手、使い手という線引きも簡単にできないような時代に入っていくのかもしれません。たとえばレベルの高いデジタル・データが作り手側から提供されて使い手がつくり、作ったユーザー同士が競い合うような場面も起きるでしょう。コピーライトに対するオープンソースの考え方など、そこには20世紀までとは異なる新しいモラルも必要になってくると思います。
do it の発想は、身近なところからインダストリアルな局面まで、さまざまな変化を思い描かせてくれます。

あなたはどのように、自分ですることを楽しんでいらっしゃいますか。

記;
モノづくり日本会議ネイチャー・テクノロジー研究会主催
2030年の 「心豊かなライフスタイル」~未来のあたりまえを考える~ コンテスト
http://www.cho-monodzukuri.jp/LS_designcontest/award01.html

研究テーマ
生活雑貨

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