研究テーマ

植物の力

風邪気味のときにショウガ湯を飲まされたり、のどが痛いとドクダミやビワの葉っぱを煎じてうがいさせられたり…小さい頃にそんな体験をしたことはありませんか? いまのように市販薬が氾濫していなかった時代、人々は身近な植物の力を借りて体を調えていました。そうすることが人の体に備わっている自然治癒力(生命力)を高めることを、経験上、知っていたのかもしれません。

中欧のメディカルハーブ

チェコやドイツなど中欧では、市販薬の他に数種類の植物(ハーブ)を常備している家庭が多いといいます。生命力がもっとも強い時季の花や葉を、自分で摘んで干して利用することもよくあるとか。特にニワトコ、キンミズヒキなどは代表的な常備ハーブで、煎じた液を患部につけたり、うがいをしたり、時に飲んだりと、日常の手当てによく使われているようです。
また、街中の薬局でさまざまなメディカルハーブが売られていますし、一般の病院でも希望すればハーブの処方箋を出してくれるのだとか。ハーブ専門店には飲みやすいティーバッグタイプのお茶も豊富で、店員に諸症状を話しながら選んでいる様子もよく見られます。

日本のメディカルハーブ

ビワの葉温灸

日本にも、メディカルハーブの考え方は古くからあり、現代にも生き続けています。いわゆる「薬草」がそれで、たとえばドクダミは十薬ともいわれ、古くから民間薬の代表。抗菌・利尿作用があり、虫刺されや皮膚のかゆみに、また高血圧予防にと広く利用されてきました。すでに奈良時代からあるのは、ビワの葉を使った療法。葉や種に含まれるアミグダリンが薬効成分で、消炎作用があるといわれ、現代でも自然療法として注目されています。また、秋の七草(ハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ)のうち、ススキを除く6種類は薬草として用いられてきたもの。中でもクズの根である「葛根(カッコン)」には発汗・解熱・鎮痛作用があるとされ、いまでも「葛根湯」の名前で親しまれています。
一方、薬草と意識してはいないけど、その効能を日常的に利用している植物も。ショウガは体を温める作用があるので、寒気がする風邪の引きはじめには効果がありますし、最近では体温を上げるためにショウガ紅茶を愛飲する人も増えています。草餅や草団子に入れるヨモギも、代表的な薬草の一つ。『病を艾(止)める』という意味から、漢方名では艾葉(ガイヨウ)と呼ばれ、その効能や栄養価の高さから、万能薬とも言われるほどです。食べるだけでなく、お茶にして飲んだり、切り傷につけたり、入浴剤として浮かべたり、また、お灸のもぐさも、このヨモギだと言ったら驚かれる人も多いでしょうか。

植物の力をいただく

ドクダミとタンポポ

器官や臓器・組織など、目で見ることのできる異常を治療するのが現代医学なら、自然療法は、気やエネルギーなど目では見えない波動にまで視野を広げて体全体の健康を考えるものです。その両方を取り入れて健康を保っていこうと説いているのは、内科医であり自然療法の専門家でもある中村裕恵さん。そして、手軽な自然療法のひとつとして、植物の力を利用することを勧めています。
こう書くと、「都市部で暮らす人間にはとても無理」という声も聞こえてきそうですね。でも目を凝らせば、都会の道端や公園の片隅にもヨモギやタンポポなどが生えていますし、少し日陰のやや湿った場所にはドクダミの姿も。ちょっと郊外に出れば、野草たちはたくましく伸びています。植物の力を見直してみると、「雑草」というくくりでは見えなかった、さまざまな植物に気づくことでしょう。
体の不調を感じたときには早めの手当てが肝心ですが、医師や薬に頼りすぎる現代人の生活に警鐘を鳴らす人もいます。もちろん、医師や薬が必要な場合もあるのですが、なんでもかんでもそれに頼るのは、自分の体を人任せにしてしまうことにつながるかもしれません。体の声に耳を傾けながら、自分の体を自分で調える。そんな基本に立ち返るとき、先人たちが見出してきた植物の存在とその薬効は、私たちの大きな力になるのではないでしょうか。

植物の薬効は、穏やかな作用で体全体に働きかけ、心身の健康に役立つといいます。同時に、薬草を煎じたりお茶を入れたりという行為には、相手の体調を思いやる心があります。そしてそのぬくもりが、体の不調を和らげてくれるという効果もあるでしょう。そんなふうに育てられた子どもが成長して、自分の家族にもまた同じような手当てをする。薬草を使った家庭療法は、こんなふうにして受け継がれてきたのかもしれません。
あなたのご家庭では、どのように薬草(ハーブ)を使っていますか。どんな思い出がありますか。ご意見をお寄せください。

研究テーマ
生活雑貨

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