ロケットストーブ
(今週のコラムは、過去にお届けしたコラムをコラムアーカイブとして、再紹介します。)
おじいさんは山へ柴刈り(しばかり)に おとぎ話『桃太郎』の有名な一節ですが、「柴」とは山野に生える小さい雑木のこと。かつての日本では、里山から拾い集めた枯れ葉や柴を、煮炊きや暖を取るための燃料として使っていました。そんな里山暮らしを現代的にアレンジして楽しむツールとして、また災害時の備えとして、いま静かに広まっているのが、ロケットストーブです。
エコなストーブ
ロケットストーブは、ドラム缶やレンガ、土などで築く暖房設備で、1980年代にアメリカで発明されました。手づくりできるシンプルな構造にもかかわらず、従来型の薪ストーブと比べて燃焼効率が格段に高く、使う薪の量は、3分の2から2分の1程度。完全燃焼に近いため煙もほとんど発生せず、筒の上部を使って調理もできるというすぐれものです。「ロケットストーブ」という名前は、熱を送りだすヒートライザーと呼ばれる部分がロケットの噴射口に似ているところからついたもの。そのすぐれた熱効率から、「エコストーブ」の名前でも呼ばれています。
はじまりは里山から
日本にこのロケットストーブを持ち込んだのは、広島県三次市で地球市民共育塾「共生庵」を営む荒川純太郎さん。アメリカ・オレゴンを訪れたとき知人に教えられ、2006年に初めて同庵で試作したといいます。2009年には「日本ロケットストーブ普及会」を設立。テキストの出版やワークショップ、日本の風土に合った改良型ストーブの研究や情報交換に取り組むうち、その輪は各地に広がっていきました。
その一つが、広島県庄原市で里山の木材を使ったクラフトや地域の食材を利用した燻製品づくりなど、多彩な取り組みをしている住民グループ、「倶楽部里山木族」。ここでは、里山暮らしを楽しみながら里山の景観や環境を守るためのツールとして、共生庵で初めて出会ったロケットストーブ(この倶楽部での呼び名はエコストーブ)の普及を進めています。間伐材や枯れ枝を燃料として使えるロケットストーブなら、周辺の山林環境の再生にもつなげられると考えたのです。
キッチン・ロケットストーブ
もともとのロケットストーブは、子どもの背丈ほどもある大きな200リットルドラム缶をベースにレンガを使ってつくるものですが、それでは重くて、持ち運びは不可。そこで基本原理構造はそのままに、小型のペール缶を使って生まれたのが、キッチン・ロケットストーブとも呼ばれる簡易型のロケットストーブです。高さ50センチほどの20リットルのペール缶の側面に、小さなステンレス製の煙突をつけたもので、暖房はもちろん煮炊きに使えば抜群の力を発揮。細長い木の枝が4~5本もあれば、20分程度でご飯が炊けるといいます。
震災とロケットストーブ
キッチン・ロケットストーブは、その熱効率の高さだけでなく、低コストで材料や燃料の自由度が高く、自分で工夫して創れ、さまざまな環境や用途に使えることから、緊急時の暖房・調理器具としても注目されています。
各種の交通インフラが壊滅的な被害を受けた東日本大震災では、被災地に救援物資が行き届くまでに時間がかかり、避難所の多くで暖房・調理用の熱源を確保しにくい状況が続きました。そんな中、注目を集めたのが、簡易型の熱源として利用できるロケットストーブ。被災地で調達可能な資材で簡単につくることができて、廃材や枯れ木などを燃料にしても高い熱効率が得られるため、インターネットなどを通じて製作方法を伝える情報が現地に向けて盛んに発信されたのです。また、移動式のロケットストーブを製作して被災地へ送るボランティア活動なども展開されました。
災害時に活躍したロケットストーブは、その後も各地に静かに広まりつつあるようです。それはきっと、日常で使って楽しいと感じられるから。簡便性や熱効率もさることながら、多くの人がこのストーブで炊くご飯のおいしさに驚くといいます。炊飯器があればスイッチひとつでご飯が炊ける時代に、あえて火加減を気にしながら「火」の上でご飯を炊いてみる。その面倒を楽しむことで、得られるものもあるのでしょう。
都会では無理、と片付けてしまえばそれまでですが、ちょっとした庭や空き地があれば無理な話でもなさそうです。アウトドア用品の一つとして楽しみながら、もしものために備える──そんな使い方もあるかもしれません。
みなさんは、こんなストーブについてどう思われますか?
○FEF日本ロケットストーブ普及協会 事務局
http://rocketstove7.blog136.fc2.com/
○参考文献:「里山資本主義」(藻谷浩介・NHK広島取材班/角川書店)