空き地をデザインする ─わいわいコンテナプロジェクト─
これからますます人口が縮小するといわれる日本ですが、今回は、地方再生の一つのモデルケースとして、空いた場所を空いたままデザインすることで町の再生を試みる、ある建築家の活動をご紹介します。
ご紹介するのは、西村浩さん。「都市に関わり、まちにさまざまな働きかけをすることで、新しい日常を提案する」建築家です。彼の仕事の中でも注目を集めているのが、佐賀市の中心市街地のにぎわいを創りだし、町の再生を仕掛ける空き地プロジェクト。「わいわいコンテナ」と呼ばれるこのプロジェクトが始まったのは、2年前のことでした。
家が減り、店が減り、町の方々に空き地ができる
どこの地方都市にも見られる現象ですが、その課題に対して、西村さんは「そこに何かをつくる」のではなく、「空き地をどうデザインしていくか」ということを考え、提案したのです。まず、町の中にある駐車場に目をつけ、それを活用する青写真をていねいに描いていきました。町を虫喰い状にしている空き地の多くは、時間貸しの駐車場になっています。そこで町の中心部の空き地を市に借り上げてもらい、そこにトレーラーハウスのブックカフェと芝生の広場をつくることにしたのです。子ども用の漫画本も並べ、町の人たちが誰でも自由に集まって楽しめるようにしました。その企画は人々を呼び込み、学校が終わると子どもたちがたくさん集まるようになります。昼間はお母さんたちも一緒に来るようになりました。そして、芝生ではさまざまなイベントが行われるように。誰でも自由にこの場所を使ってよいと決めていたので、無料の英語教室やアクセサリーの実験販売など、町の人たちが工夫してどんどん使うようになっていきました。
それから2年、今やそのまわりには多くの人が集まり始めたのです。人が行き交うようになれば、町は変わっていきます。町に人通りが戻ることはもうないだろう、と誰もが思っていたのですが、状況は変わり始めました。芝生の広場の隣には新しい店もでき、この空き地プロジェクトの第2弾目も始まりました。
さらに今後は、町のはずれにまとまった駐車場をつくり、その権利と中心部に点在する時間貸しの駐車場の権利とを交換する仕組みをつくろうとしています。つまり、土地の所有者には今までと同じように売り上げを担保しながら、町の中に芝生の空き地を増やしていこうというのです。町のはずれの駐車場から中心地への移動には、循環バスを走らせる構想だとか。そうなれば、人々は歩いて行き交い、集い、町はもっとにぎわうようになるでしょう。そして車のない中心市街地は、子供が安心して遊べる場所にもなるはずです。
土地があれば何かを建てて収益を上げる──戦後の日本経済は、そんなかたちで発展してきました。しかし、人口が減り土地が余っていくこれからの時代。そこにまた建物をつくって店を拡大していくという従来の手法ではなく、空いた場所は空いたままで活用するという考え方もあるのではないでしょうか。
そこに何かをつくるのではなく、「つくらない」ことをデザインしていく。
この空き地プロジェクトでは、そうすることで魅力が生まれ、人が集まっていったのです。人が集まれば市が立ち、その周辺の価値も上がっていきます。
大きな投資をするのではなく、空き地をデザインすることで「持続可能な仕組み」を考えていく。そろそろ、そんな時代に来ているのかもしれません。
空き地を積極的にデザインしていくということについて、みなさんはどう思われますか? ご意見、ご感想をお寄せください。
画像・図面提供:ワークヴィジョンズ