朝の掃除
通勤・通学の人たちが動きだすよりもっと早い朝の時間帯、駅前などを掃除している人を見かけたことはありませんか? 早朝5時過ぎぐらいになると、ボランティアや宗教団体などさまざまなグループが、駅の周辺や公園、道路やバス停、公衆トイレなどを掃除しています。それも毎日、誰にも目につかないまだ暗いうちから、黙々と。日本の町はきれいだとよく言われますが、実は、こうした「心ある」人たちによって、きれいに保たれてもいるのです。
自分に向き合う時間
そんな風にトイレを掃除している人に、話を聞いたことがあります。便器が汚物などで汚れていると、それを掃除しながら「おなかの調子が悪かったのではないか、飲み過ぎて辛かったのではないか」と、トイレを使った人のことが気にかかるというのです。仕事の時間は心のゆとりがなくなりがちでも、朝のこの時間は、掃除を真剣にすることで「自分でも不思議なほど、人を思いやる気持ちが湧いてくる」と語っていました。人のために活動することで、イライラしたり怒ったりする自分を見つめ直し、心のゆとりを取り戻しているようです。そういえば禅寺の修行僧、雲水たちは、ただ黙々と掃除をします。心を空にして掃除をすることが、そのまま修行なのです。最近では、朝だけでなく土曜日や日曜日に、若いボランティアの人たちが海の周りや公園、山などを掃除しているという話もよく耳にします。彼らも、掃除をすることで自分自身に向き合い、見つめ直しているのかもしれません。
掃除は仕事の基本
仕事をする場でも、仕事の前には掃除をするのが日本の習慣です。工事現場でも工場でも、多くのところでは、まず掃除をしてから仕事を始めます。きれいな仕事場はきれいな仕事につながり、仕事もはかどるといわれます。そして工事現場などでは、怪我や事故の予防につながるとも。掃除をすることで、細かなことに気づく心の余裕や、やさしさが身につくのかもしれません。
人のやさしさを感じるために
「よいことは、人に見られないようにそっとするものだよ」公園の掃除をしていた人の言葉です。誰かのために、毎日のようにする掃除は、自分自身の中に「気づき」をつくる大事な時間になるのかもしれません。誰も見ていなくても、小さなことや身の周りのことをそっとやってみる。そんなことから、細かなことに気づき、人の気遣いを受け止めるやさしさが身についていくのでしょう。朝の忙しい時間、電車に飛び乗るようにして一日がスタートすることも多い日常。ほんの少しだけ時間の余裕をもって、仕事前に自分の仕事場の整理整頓から始めてみるのもよさそうです。
日経新聞の「人間発見」というコラムに、アンデルセングループの相談役、高木彬子(あきこ)さんのことが紹介されていました。高木さんは創業の精神を伝えようと私費を投じて寺子屋をつくりましたが、その入所資格は、「雑巾を1枚持参する」こと。「それは、床を磨き、心を磨き、人生を磨く道具」だからです。
年の瀬も近づいて、大掃除のシーズン。「自分に向き合う」という意識でそれをおこなうなら、例年の大掃除とはまた違ったものになるような気もします。
朝の掃除について、みなさんはどう思われますか? また、実際に掃除活動などをしていらっしゃる方も、ご意見をお寄せください。