研究テーマ

AEDを使う勇気 ─大切な人の命を守るために─

もし、いま目の前で、あなたの大切な人が倒れたとします。駆け寄って呼びかけても応じない。見たところ呼吸もなく、脈もない。そこに誰かがAEDを持ってきました。心臓に電気ショックを与える装置です。これを使えば心臓が正常な動きに戻るかもしれない。さて、あなたはどうしますか? このような場面でAEDを使えますか? 今回はスポーツの秋に向けて、一般の人でも使えるようになった救命機器「AED」について考えてみたいと思います。

今や30万台

この日本で、医療従事者でなくともAEDが使えるようになったのは、今から10年前のこと。以来、普及は順調に進み、設置されているAEDは全国で30万台を数えるようになりました。駅の構内や商業施設など、街の随所で見かけるようになったAEDですが、実際に使えるかというと、これがなかなか難しい。一般の人にとってはかなり勇気の要る行為です。ですが、心肺機能の停止は誰にでも起こりうること。病院外の突然の心停止で亡くなる人の数は、年間5~6万人にのぼると推定され、交通事故の死者数よりはるかに多いのです。ある日突然、隣の人がバッタリ倒れて心停止に陥る、そんな場面に私たちはいつ出くわさないとも限らないのです。

AEDの実力

心臓の機能が停止した人を前に、一般の私たちにできること、それは救急車を呼ぶことでしょう。しかし、総務省消防庁の調べによると、119番に通報した場合、救急車が来るまでにかかる時間は、全国平均で8.2分とされています(平成23年のデータ)。一方、心停止後3分以内にAEDを使うと、約75%の人が救命できるというデータがあります。しかも、この救命率は、処置が1分遅れるごとに7~8%低下するそうで、つまり救急車が到着する前、心停止した直後の3~4分が勝負。この時間内にAEDを使えれば、救える命があるのです。実際に、平成23年に目撃されたケースでいうと、心肺機能停止者のうち、一般市民によってAEDが使われた場合の1ヶ月後の生存率は45.1%にのぼるとか。AED未使用の場合の1ヶ月後の生存率10.3%と比べると、なんと4.4倍も救命率が上がっているのです。早期にAEDを使えるか、使えないか、そこに命の分かれ目があるのです。

そもそもAEDとは

AEDは心臓を動かす装置ではありません。完全に止まってしまった心臓は、AEDをもってしても動かすことは不可能です。AEDが有効なのは、「心室細動」に陥った心臓で、パソコンでいえば"フリーズ"に近いもの。心筋が痙攣したように小刻みに震え、うまく脈打てなくなっている状態です。「心室細動」に陥った心臓は、そのまま放置すればやがて完全な心停止に至ります。その前に強い電気ショックを与えて心臓をリセットする、それがAEDの役目。細動が取り除かれた心臓は、初期の状態に戻り、再び鼓動を始める可能性が高まります。AEDの日本語名称「自動体外式除細動器」とは、自動的に心室の細動を取り除く、つまり「除細動」するための装置という意味です。

命を救う講習

AEDの使い方は簡単です。フタを開き、電源を入れると音声ガイダンスがスタート。後は案内に従って操作するだけです。電気ショックが必要か否かはAEDが自動的に判断するので、間違って健康な人に電気ショックをかけてしまう心配もありません。とはいえ、実際に使う場面に出くわすと、やはり躊躇してしまう人が多いのも事実。専門家が口を揃えて言うのは、「救命講習」を受け、AEDに慣れておいてほしいということです。百聞は一見にしかず。一度でも講習を受けた人は、比較的スムーズにAEDを使うことができるそうです。
とくに心臓に問題のない健康な人でも、ある日突然、心停止は起こりえます。マラソンや水泳などの激しい運動をしたとき、また、「心臓しんとう」といって、野球やサッカーのボールなどが胸に当たり、強いショックを受けたときにも心臓は止まります。そんなとき、命を救ってくれるのがAED。こんなに便利で頼もしい機器の使い方を、覚えておかない手はありません。ぜひ一度「救命講習」を受け、AEDに触ってみてはいかがでしょうか。講習会は地元の消防や防災センター、日本赤十字社などで受けられますが、最近は民間のスポーツジムやAEDメーカーなどでも受講できる所があるそうです。

用心するということ

日本には「用心」という言葉があります。心を用いる、と書いて「用心」。万が一のことに心を向けて、しっかり備えよという意味だと思います。あまり耳にしなくなった言葉ですが、現代人はこの言葉とともに、用心することの大切さを忘れかけているような気がします。自分の身は自分で守る。周りの人の身も自分で守る。本来はそれが基本のはず。しかし、社会のシステムの発達とともに、国が何とかしてくれる、誰かが何とかしてくれる、このような思いが強くなっているのではないでしょうか。AEDを使う確率は万に一つか、それ以下かもしれません。しかし、その万が一のとき、自分がAEDを使えるか否かで、大切な人の命を救えるかどうかが決まるのです。

楽しい一時を悲劇の一瞬にしないために、みんなの歓声を悲鳴に変えないために、AEDを使えるようにしておきませんか。
みなさんのご意見をお聞かせください。

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