研究テーマ

木枯らし1号に思うこと

冬に吹く冷たい北風は「木枯らし」。そして、その年の冬、初めて吹く木枯らしを「木枯らし1号」と呼ぶそうです。「春一番」に対して使われるようになった「木枯らし1号」という言葉、一体いつ頃、誰が使い始めたのでしょう。日本には他にも季節の到来を告げる言葉がいろいろあります。今回は季節を表す言葉について考えてみたいと思います。

名付け親は気象協会

木枯らし1号について、気象庁の天気相談所に聞いてみました。すると、この言葉の初出は日本気象協会が発行していた「気象」という雑誌で、1968年頃から使われるようになったとか。当時は「木枯らし一番」「木枯らしNo.1」「初こがらし」などという呼び名もあったそうですが、1979年に気象庁が「木枯らし1号」についての基準を決め、その後は気象庁から発表されるようになりました。発表するにあたっての基準は明確なもので、「10月半ばの晩秋から11月末の初冬の間に、初めて吹く毎秒8メートル以上の北よりの風」とのこと。この条件を満たしていなければ(たとえば風速が5~6メートルぐらいでは)、木枯らし1号とは呼ばれません。また、風は強くても気温が高く、寒さを感じない場合も、木枯らし1号は発表されないそうです。

冬の到来を告げる風

では、どんなときに木枯らし1号は吹くのでしょう。秋から冬へ季節が移りゆくとき、北にある冷たい空気と南にある温かい空気が、日本列島付近でせめぎ合います。こういう南北の温度差があるときは、低気圧が発達しやすくなります。低気圧はざっくり言うと、中心から右半分に南よりの風、左半分に北よりの風が吹いています。ですから、発達した低気圧が西から近づいてくる土地では、まず南よりの温かい強風が吹き、低気圧の通過とともに風向きが一変し、北よりの冷たい風に変わります。これが「木枯らし一号」の正体です。
風向きが変わるまでの間はわずか数時間。昼間はコートがいらないくらい温かかったのに、家路につく頃には身をすくませるほどの寒風が吹きすさぶ……。冬の到来を身に染みて感じる風なのです。年によって差はありますが、平均するとだいたい11月の初旬に吹くことが多いとか。今年は11月7日が「立冬」ですから、この頃に吹けば、まさに冬の到来を告げる風になるでしょう。ちなみに上記の条件が満たされず、木枯らし1号が発表されなかった年もあります。

春を告げる風

著作者: ai3310X

春にも季節を告げる風が吹きます。言わずと知れた「春一番」。この風にも発表の基準があって、「北海道と東北、沖縄を除く地域で、立春から春分までの間に、初めて吹く毎秒8メートル以上の南よりの風」というもの。北海道と東北、沖縄が除かれているのは、関東や関西などに比べて春の訪れが早すぎたり遅すぎたりするからでしょう。ただ、ここで疑問に思うのは、基準をすべて満たしていないと「春一番」とは呼ばれないこと。立春より一日早く吹いても、春分より一日遅く吹いても、それはただの南風であって、「春一番」ではないのです。
「木枯らし1号」や「春一番」の他にも、気象庁は梅雨入りや梅雨明け宣言などを行います。「もう梅雨に入ったの?」「いや、まだだってさ」といった会話はその時期よく聞かれるもの。梅雨入り、梅雨明けは、気圧配置などを見て気象庁が総合的に判断しますが、一般的な感覚と必ずしも一致しないため、「雨が降っているのにまだ梅雨入りしてないの?」「こんなに晴れているのに梅雨明けじゃないんだ」といったズレが生じます。一旦梅雨入りを宣言し、のちに晴れ間が続くようなときは、「梅雨の中休み」という言葉を使うことも。また、稀に雨がほとんど降らない場合は「空梅雨」という便利な言葉も用います。

季節を決めるのは誰か

日本は言葉の豊かな国です。風ひとつとっても「東風(こち)」「南風(はえ)」「野分(のわき)」「青嵐(あおあらし)」「山背(やませ)」など、さまざまな呼び名があります。これらは自然とともに生き、季節の移り変わりを肌で感じてきた日本人の豊かな心から生まれた言葉でしょう。「春一番」もその一つ。この呼称には、長らく耐えてきた冬の寒さからようやく解放された人々の気持ちが混じっているような気がします。それを気象の基準で一律に線引きし、メディアを通じて発表するのは、どうなのでしょう。風速が何メートルであっても、日付が多少前後しても、風が吹き、肌に心地よく、春だなぁと感じたら、それが「春一番」でいいのではないでしょうか。

もうすぐ本格的な冬がやってきます。天気予報で「西高東低の冬型の気圧配置」という言葉を耳にする日も遠くはないでしょう。でも、気温の感じ方は千差万別。厚いコートを着込む人がいれば、上着一枚で涼しい顔をしている人も。ビュウビュウと吹く風が落ち葉を舞わせ、あなたが「寒ッ!」と感じたら、それが「木枯らし1号」に違いない。季節の言葉は、自分の感覚を基準に考えればいいのではないでしょうか。
さて今年、みなさんの街では、いつ頃木枯らしが吹くのでしょうか?

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生活雑貨

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