研究テーマ

「間(ま)」を読む。

「間が抜ける」といえば、肝心なところが抜けていること。だらだらと続いて物事にしまりがなくなるのは「間が延びる」で、きまりが悪いことやタイミングが悪いのは「間が悪い」。時間をへだてたら「間を置いた」ことになり、急場の一時しのぎは「間に合わせ」……私たちのまわりには、さまざまな「間(ま)」が存在しています。「間(ま)」とは「二つのモノやコトのあいだ」のことですが、意識しなければ見落としがち。今回は、そんな「間」について考えてみましょう。

空間の「間(ま)」

家庭菜園をしたことのある方なら、農作業の上で大切なことは、作物に光や風や水の通り道、つまり「すきま(透き間)」をつくることだとご存じでしょう。苗がある程度育ったところで「間引く」のも、苗と苗のあいだに「間(ま)」をつくるため。空間的な「ま」は「すきま」に通じるのです。
この「透き(すき)」は、田畑を整える「鋤き(すき)」と同じルーツをもつ言葉。「"鋤く"は単に田畑の土を掘り起こすだけの意味ではなく」、「土や作物のために"すきま"をつくること」で、「高温多湿の中でどんどん繁茂する雑草を除去するという絶え間ない労働によって」「光も風も水もよく透す"すき"を含んだきれいな土へと再生する作業」だと解説する人もあります(向井周太郎『ふすま━文化のランドスケープ━』中公文庫)。そして同書の中には、「神が宿るために田の草を取る」という古老の言葉も。かつての日本人にとって、「間」をつくることは神聖な空間をつくることであり、神の降臨を願う意味もあったのでしょう。農耕民族としての日本人の世界のつくり方、整え方が見えるようです。

時間の「間(ま)」

目に見えないだけにわかりにくいのが、「時間の間(ま)」です。日本の芸能の世界では、昔から「間(ま)は魔物」と言われてきました。変なところで「間」をとると、「間が合わない」「間が悪い」ことになり、「間をあけすぎる」と「間が伸びた」「間が抜けた」「間が持てない」ことになり、その逆はまた「間がない」「間を欠く」ことになる。「間」の取り方ひとつが、演技全体を左右してしまうのです。
能の稽古では、「謡(うたい)は声を出している時ではなく、息継ぎの方が大事」「仕舞(しまい)は止まっている時間こそ重要」と、くどいほど注意され、叩き込まれるとか。お茶の稽古でも、所作をしていないあいだ、どこに心を置くのか、といったことをうるさく言われるそうです。無いものをただ「無い」とするのではなく、そこに心を配ったときに生まれるのが「間」であり、その「間」はそれを感じ取る相手がいることによって成立するのかもしれません。

人と人の「間(ま)」

「空間の間(ま)」、「時間の間(ま)」に加えて、「人と人との間(ま)」もあります。
今ではハグしながら挨拶するのも珍しいことではありませんが、50年前には「握手」ですら恥じらう人も多かった日本人。幼い子ども相手のときなどを除いて、身体を触れ合うことで気持ちを表現する習慣はあまりなかったような気がします。高温多湿で蒸し暑い日本の風土の中では、密着することはあまり好まれず、人と人のあいだ、人とモノとのあいだに、風を通す「すきま」や適度な「ま」が必要だったのかもしれません。
「仲がいいほどケンカする」とはよく言われることですが、もしかしたら、仲が良くなり心の距離が近づき過ぎて、ほどよい「間」が保てなくなったときにケンカをしてしまうということもありそう。日本語に敬語や謙譲語があるのも、相手との「間」を上手に取るためなのかもしれませんね。

体内の「間(ま)」

私たちの身体の中にも「間(ま)」があるといいます。外科医として数えきれないほどの手術に立ち会ってきた帯津良一さん(帯津三敬病院名誉院長)によれば、「身体の中には何もない空間がたくさんあり」「人間のお腹の中は隙間(すきま)だらけ」で、「ぽっかり空いた空間に臓器がいくつか吊り下がっている」というイメージだとか(『気功的人間になりませんか━ガン専門医が見た理想的なライフスタイル━』帯津良一)。
体内に広がるこうした空間は、これまでの西洋医学では無視されてきました。しかし、「臓器や細胞に注目するだけでは治癒という仕組みはわからないのではないか」「"何もない空間"にこそ、大きなエネルギーが潜んでいるのではないか」と帯津さん考えています。
私たちの身体の中にも、空間という「間(ま)」があり、それが私たちを生かしているかもしれない。そう思うと、身体への認識が少し変わってきそうですね。

「間(ま)」を意識することは、想像力を働かせて、目に見えないモノやコトを感じとろうとすること。ゆっくり深く呼吸するだけでも、心の「間(ま)」を広げることはできるかもしれません。

みなさんは、日常の中でどんな「間(ま)」を意識していらっしゃいますか?

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生活雑貨

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