もうひとつの教育
今、この日本に、不登校の子がどれくらいいるかをご存じですか。答えは約12万人。これは2013年度に文部科学省が行った、学校基本調査で明らかになった小中学校の不登校(年間30日以上欠席)の数です。なかでも中学では37人に1人(ほぼ1クラスに1人)が不登校を経験しているとか。そんな中、従来の教育とは一線を画す"オルタナティブ教育"と呼ばれる"もうひとつの教育"が注目を集めています。
オルタナティブ教育とは
「オルタナティブ」とは英語で"別の選択"という意味の言葉。現行の義務教育とは違う、"もうひとつの教育"という意味で、この言葉が使われています。日本における「オルタナティブ教育」は、大きく二つに分けられると言われています。一つは不登校児童や生徒の救済のための「フリースクール」や「サポート校」など。そして、もう一つが、「シュタイナー教育」や「サドベリー教育」といった独自の理念に基づいて行われるユニークな教育です。今回のコラムでは主に後者、つまり、従来の教育の枠にははまらない、別の思想や理念に基づいて行われている教育に焦点を当ててみました。
シュタイナー教育
「シュタイナー教育」は、日本におけるオルタナティブ教育の草分け的な存在です。20世紀初頭にオーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナーによって創始されたもので、「教育は芸術であるべきだ」という言葉に象徴されるように、芸術性を重んじたカリキュラムを特色としています。シュタイナー教育では、21才までの人間の成長を3つの「7年期」に分け、子どもの心身の発達に合わせて、それぞれの段階にふさわしい教育を授けます。
特徴的なのは、教科書を使わない「エポック授業」と呼ばれるものがあること。午前中の時間をたっぷり使って、子どもたちは一つの教科を学びます。しかも、算数なら算数だけを毎日、3~4週間ぶっ続けで学ぶとか。一日の中で各教科を細切れに学ぶのではなく、一つの教科にじっくり取り組むことで、学びをより深めていくという狙いがあるそうです。現在、シュタイナー教育を行う学校は全世界に1000校近くあり、日本でも10校ほどのシュタイナー学校が運営されています。
サドベリー教育
1968年、アメリカのボストン郊外に誕生した「サドベリー・バレー・スクール」を源流とする教育が「サドベリー教育」です。この教育の最大の特徴は、スクールに先生がいないこと。驚くべきことに授業も一切ありません。子どもたちは自由に、毎日、自分のやりたいことを好きなだけやって過ごします。
この教育の根底にあるのは「人は本当にやりたい、必要だと感じたときに一番よく学ぶ」という考え方。スクールにはスタッフと呼ばれる大人がいて、生徒たちのあるがままを信頼し、子どもたちが好きなことを見つけ出し、自ら進んで学び出すのを見守ります。「大人がさせたいことをするのではなく、子どもがしたいことをする学校なんですね」と語るのは、「東京サドベリースクール」のスタッフの杉山さん。ここで学ぶ子どもたちは、自らの人生を自らの意志で選択することで、悩み考える力を養い、自分の道を自分で切り開いていく力を獲得していくのです。現在、「サドベリー教育」を実践するスクールは、東京、湘南、埼玉の首都圏を始め、札幌、愛知、兵庫、八ヶ岳、沖縄など、全国に広がっています。
世界に一つだけの花
オルタナティブスクールを営む人々は、決して「現行の教育を否定するものではない」と言っています。ただ、一方で、従来の教育や学校になじめずに苦しんでいる子たちがいるという事実もあります。
かつて「世界に一つだけの花」という素敵な曲がありました。一人ひとりの子どもの個性を活かすのは、まさに世界に一つだけの花を咲かすこと。子どもたちがのびのびと「自分の花」を咲かせられるようにするためにも、教育の選択肢にはもっと幅があっていいような気がします。
現在、ほとんどのオルタナティブスクールは文部科学省の認可を得られず、子どもたちは地元の公立学校に籍を置いたまま通っているのが現状です。もちろん無認可校なので卒業資格も得られません。このような問題を解決しようと、フリースクール等を公に認める新法を作ろうという動きもありますが、いまだ実現には至っていません。
子どもたちの個性をのばす"もうひとつの学校"、オルタナティブスクールについて、みなさんはどう思われますか。ご意見、ご感想をお聞かせください。
[関連サイト]
一般財団法人東京サドベリースクール