研究テーマ

被災後の力強い取り組み -水産加工業の現場から-

東日本大震災が発生して今日で4年が経ちました。被災されたみなさま方には、心よりお見舞いを申しあげるとともに、一日も早い復興をお祈り申しあげます。
日本人の心に深い傷跡を残した東日本大震災ですが、被災地となった東北で、どん底の状況から力強く立ち直ろうとする経営者の姿を記録した人がいます。田中敦子さんというテレビのプロデューサーです。今回のコラムでは、震災後の貴重な記録を撮り続けた田中さんの取り組みについてご紹介します。

水産加工業との縁

昭和39「ウルトラQ」のセットで

田中さんは50年以上もテレビの世界で生きてきました。円谷プロダクションの創設時のスタッフの一人で、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の仕事に携わられた方です。2007年に独立し、「ソラワン」という会社を設立したのが、東日本大震災が発生する4年前のことでした。
自社で手がけた仕事の一つに、全国商工会連合会が開く物産展のPR映像の制作がありました。池袋のサンシャインシティで開かれたこのイベントには、東北地方の水産加工業者も多数参加していました。3月11日、東日本大震災が発生し、押し寄せる津波の映像を見たとき、田中さんの脳裏にまっ先によぎったのが、物産展でご一緒した水産加工業者のみなさんの顔でした。「とても他人事とは思えなかったんですよ」と、当時を振り返り、田中さんはおっしゃいます。居ても立ってもいられずに、震災発生後の3月末には、もう東北に足が向かっていました。

真実を正確に伝えたい

「これだけの大災害の記録は、余計な思惑を差し挟まずに、正確に残しておくべだ」と被災地を見て田中さんは思ったそうです。復興の事実の記録は、必ずや後世の人の役に立つはずだと。しかし、同時に「これはテレビでは難しいなぁ」とも感じたそうです。視聴率優先のテレビ業界を知っている田中さんならではの感想でした。そこで田中さんは私財を投げ打ち、自らの費用で記録影像を撮ることを決意したのです。
2011年4月、震災の爪痕の生々しく残る被災地に入った田中さんは、まず地元のことをよく知る新聞社を訪ねました。「復興の過程を包み隠さず記録したい」という趣旨を伝え、どの会社の経営者が避難所に居ながら「復興するゾ!」と手を挙げているのかを教えてもらったのです。そして、そこからDVD「被災地の水産加工業 経営者たちの戦いの記録」の制作がスタートしました。

復興との苦闘の記録

取材先となったのは、宮城県の塩竃、石巻、気仙沼、それに岩手県の山田町にある5つの水産加工業者です。水産加工業に的を絞ったのは、被災地となった東北ではこの業界が雇用の柱となっていたから。また、水産業の世界は、漁業、水産加工業、冷凍業の3つの業種で成り立っています。水産加工業と冷凍業が稼働していなければ、漁業の復興もありません。田中さんが作成したDVDでは、被災地で必至に立ち直ろうとする経営者たちの苦悩が克明に描かれています。
経営者の一番の戦いは、再建に要する資金の調達でした。被災地の中小企業が熱望した補助金は「グループ補助金」でしたが、一次および二次の補助申請は水産加工業には下りず、結局、三次の申請で補助が下りたのは、ようやく年末になってからでした。さらにその間には復興需要で、工場再建に要する建設資材が値上がりし、人件費も高騰するなど、経営者は多大な苦労を強いられました。このためほとんどの水産加工業者が、震災前に借りていたローンと、事業の再建に要するローンのダブルローンに苦しみました。経営者の皆さんが受けたストレスは想像以上のもので、実際取材している間に、5社のうち3社の社長さんが病に倒れてしまいました。

事業継続のための貴重な資料

震災後に、BCP(Business Continuity Plan)という言葉が注目を集めました。災害発生時にいかにして企業はビジネスを継続するか、そのために事前に備えておくプランのことです。「田中さんが作ったDVDにはBCPのヒントが詰まっている」と、注目したのは、中小企業診断士の先生方でした。たとえば取材をした一社「木の屋石巻水産」は、震災前に津波の保険に入っていました。これで震災前の借金を返すことができました。さらに、この会社は同業他社と事前に業務提携を結んでいたので、工場は流されましたが、従業員を提携先の会社に送り込み、自社製品の製造を続けることができました。「こういう復興の記録は、次に起きる震災のために必ず役に立つ」と、中小企業診断士の先生方は太鼓判を押しているそうです。

テレビが伝えない真実を記録したこのドキュメンタリーでは、経営者の方々が補助金をいくら得たのか、借金はいくら残ったのか、何年で返済するのか、すべての金額を赤裸々に語り、取材に協力されています。「この経験をぜひ次に生かして欲しい」という強い願いの現れだと田中さんは語ります。次の地震がいつどこで起きるかは誰にも分かりません。しかし、万一起きたとき、先人が残してくれた記録は必ずや役に立つはずです。「被災地の水産加工業 経営者たちの戦いの記録」DVD6枚組のセットは、20人のグループを集めてくだされば、1人ワンコイン(500円)でご覧いただけます。また、興味のある方には無料貸し出しも行っているそうです。

[お問い合わせ先]
有限会社SORA1(ソラワン)
URL:http://sora1tv.web.fc2.com/
TEL :03-3797-7551
e-mail:sora2@s3.dion.ne.jp

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生活雑貨

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