研究テーマ

ウォーキングのススメ

人間は二本足で立ち、歩くことができる動物です。いつ、どんな理由で人類が直立歩行を始めたのか、そこはまだ分かっていません。ただ、二本足で立って歩く、これが他のほ乳動物と人間を区別する大きな特徴になっていることは確かなようです。さて、季節は初夏。新緑も美しく、外を歩くにはうってつけの気候になりました。今回は歩くことの効用について考えてみます。

日本人の歩数

平成22年に厚生労働省が「国民健康・栄養調査」というものを行いました。その結果、日本人の1日あたりの平均歩数は、男性で7,136歩、女性で6,117歩ということがわかりました。この調査で興味深いのは、都道府県別の歩数が示されていること。それによると、男女とも最も歩く県は「兵庫県」。ついで男性の2位が「東京都」、3位が「神奈川県」。女性は2位が「神奈川県」で、3位が「東京都」。兵庫、東京、神奈川で1位から3位までを独占する形になりました。逆に、歩数が最も少ないのは、男性が「鳥取県」で、女性が「山梨県」。全国的に見て、交通網が発達した都市部で歩数が増え、マイカーの利用が多い地方で歩数が少なくなる傾向にあるようです。ちなみに江戸時代の庶民は1日3万歩ほど歩いていたとか。明治や大正の時代にも、勤め人は同じぐらい歩いていたようです。歩数だけで運動量は測れませんが、総じて現代人が運動不足気味であることは否めないところでしょう。

歩くといいわけ

歩くとカラダにいいといわれますが、具体的にはどういいのでしょう。京都大学名誉教授の大島清さんの「歩くとなぜいいか?」という本には、歩行の健康効果が詳しく書かれています。ざっと紹介すると、1)歩くと筋肉量が維持でき、基礎代謝の低下が防げる、2)脂肪がよく燃えてやせられる、3)「血管年齢」が若くなる、4)心臓病から遠ざかる、5)「生活習慣病」の予防になる、6)「がん」の予防も期待できる、7)「骨」が丈夫になる、8)よく眠れる、9)「カゼ」をひきにくくなる、10)「脳」が刺激され「ボケ予防」になるなど、その効果は多岐にわたります。まさに歩行は健康法の王様といえそうです。
厚生労働省が「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」などを総称して「生活習慣病」と呼ぶようになったのは1996年のこと。それまで、この手の病気は年齢によるものとされ「成人病」と呼ばれていました。ところが、病気の原因は加齢ではなく、むしろ生活スタイルにあることがわかり、「生活習慣病」という新語が生まれたのです。近年では「メタボリックシンドローム(代謝症候群)」などとも呼ばれますが、こういった血管系の病気には、歩くことが絶大な効果をもたらします。

ロコモ対策にも

メタボ改善に効果のあるウォーキングですが、最近ではもう一つ、「ロコモ」にも有効だといわれています。「ロコモ」とは「ロコモーティブシンドローム(運動器症候群)」の略で、骨や関節、筋肉などの運動器に障害が生じることです。運動器が衰えると寝たきりになる可能性が高まります。そして、寝たきりになると運動ができず、ますます健康状態が悪化します。このような悪循環に陥らないためにも、日頃より歩いて、足腰などの運動器を鍛えておくことが大切というわけです。

理想の歩数は?

では、健康を維持するためには毎日どれくらい歩けばいいのでしょう。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」によると、18才~65才の人で、「歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分以上行う」ことが望ましいとされています。歩数でいうと8,000歩から10,000歩ほど。距離でいえば5~7kmぐらい。だいたい毎日これぐらい歩くと、健康維持に役立つそうです。
とはいえ、3日坊主という言葉があるように、誓いを立てて歩き始めても、なかなか続かないという人もいるでしょう。そこでおすすめなのが、泉嗣彦さんというお医者さんが考えた「ライフスタイルウォーキング」。これは1万歩などという壮大な目標を立てず、「今より少しだけ多く」歩いてみるというもの。たとえば、家事や仕事をしながら、室内でもより多く歩くことを意識する。なるべくエレベーターやエスカレーターに乗らずに階段を使う。近い距離なら、バスや車、電車に乗らず、せっせと歩く。前を歩いている人がいたら、その人を追い越してみる。このように日常生活の中で意識して無理なく歩数(運動量)を増やしていく。それだけで、わざわざ運動の時間をとらなくても、健康維持には十分に役立つというのです。

歩くことで動くのは、カラダだけではありません。気持ちよく歩けば、心もまた歩調に合わせて動き始めます。健康でイキイキした毎日を維持するために、ウォーキングは何よりのサプリメントといえるのかもしれません。
あなたは1日何歩ぐらい歩いていますか。ご意見・ご感想をお寄せください。

研究テーマ
生活雑貨

このテーマのコラム