天気を読む(夏編)
昨年の夏、東京の公園で蚊に刺された人がデング熱にかかりました。デング熱といえば、熱帯や亜熱帯地方に見られる伝染病。それが日本国内で、しかも東京都で発症したということで、大きな騒ぎになりました。連日のように35度を超える猛暑日が続いたり、熱帯のスコールのような雨が降ったり、この夏もまた異常気象に見舞われるのでしょうか。それとももはや異常が日常になってしまったのでしょうか。夏の天気について考えてみました。
梅雨明け
日本列島の梅雨は、沖縄と北海道地方をのぞくと、だいたい7月中旬から下旬にかけて明けるようです。ちょうど学校の一学期が終わるころで、日本の夏休みは梅雨明けに照準を合わせているのですね。旅行やキャンプ、海水浴など、楽しいことがいっぱいの夏ですが、自然に触れあう機会が多いだけに、災害にも注意が必要でしょう。その一つは、突然の大雨です。
気象庁では天気予報で使う用語を定めています。「雨の強さと降り方」を見てみると、1時間あたり20~30ミリの強い雨は「どしゃぶり」。30~50ミリの激しい雨は「バケツをひっくり返したように降る」。それ以上、50~80ミリの雨は「滝のように降る」で、80ミリ以上の雨は「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感ずる」と表現するそうです。特にここ数年、昔はめったになかった"恐怖を感ずる"1時間100ミリ超の雨が増えてきました。なぜ、こんなに激しく降るようになったのでしょう。
気温と水蒸気の量
雨は空気中に含まれる水分(水蒸気)が飽和に達して、水(雨滴)となったものが降るものです。つまり、雨の原料となる水は、そのときの空気の中に含まれているわけです。そして、空気がどれぐらいの水を含めるかは、そのときの空気の温度によって決まります。たとえば気温30℃の空気は1立方メートルあたり最大「30グラム」の水蒸気を含むことができます。ところが気温が35℃に上がると、最大「39.2グラム」まで水蒸気を含めるようになるのです。気温が30℃から35℃に上がるだけで、空気中に含まれる最大水蒸気量はおよそ3割も増加するのです。
猛暑日の増加
「猛暑日」という言葉を気象庁が使いだしたのは、2007年の4月から。「猛暑日」とは最高気温が35℃を超える日のことで、2000年代に入ってから急増し、1960年と比べると2010年の猛暑日発生数は約2倍(※1)になっています。
気温が35℃を超えると、空気が含める水蒸気の量は格段に多くなり、それが雨となって落ちてくるので、当然降水量が増えてきます。事実、1時間に100ミリ以上の雨が降った回数は、1987年~96年の10年間と、97年~2006年までの10年間を比べると、やはり2倍以上(※2)になっています。このところの尋常ならざる雨の降り方の背後には、地球温暖化による気温上昇の影響が少なからずあるようです。
バックビルディング現象
昨年8月20日、広島市の北部で集中豪雨があり、大規模な土砂災害が起きました。このときマスコミで話題になったのが、「バックビルディング現象」という言葉でした。
通常、雷雨をもたらす積乱雲は、背丈は高く一万メートルにも達しますが、面積はさほど大きくありません。ですので、一個の積乱雲がもたらす雨は長続きせず、ザッーと降って終わってしまうことが多いのです(夕立はこのパターン)。ところが、台風などが南の海上にあり、湿った風が流入している場合には、積乱雲の後ろに次の積乱雲が生まれるという連鎖が生じます。これがバックビルディング現象。こうなるとカルガモの親子が通るように、同じ箇所を新たに生まれた積乱雲が次々と通過していきます。連続して雨雲が通過することで雨が途切れず、思わぬ大災害を引き起こすのです。
もはや熱帯?
こういった"異常気象"から身を守る手立てはあるのでしょうか。考えられる対策としては、海や山へ出かける際に、テレビやネットで詳しい天気の情報を仕入れておくこと。警報や注意報が出ているときは、予定があっても外出を控える。最近はスマートフォンのアプリでゲリラ豪雨を知らせるものなども出ているので、事前に情報を入手して、「君子危うきに近寄らず」で行くしかないかもしれません。そう、車を持っている方は、水没したときの脱出用に、専用のハンマーを備えておくといいかもしれませんね。
と、こんなことまで考えなければならないほど激しくなってきた昨今の天気。もはや日本の夏は温帯ではなく、亜熱帯、いや熱帯になったと言っている人もいるほどです。
ある気象予報士の話では、今年はエルニーニョ現象が発生しているので、さらなる天候不順が予想されているとか。ひと夏を楽しいものにするためにも、これまでの常識は通用しないものと思い、天気の急変などにくれぐれも注意したいところです。
参考図書:
※1 1時間に100ミリ以上の雨が観測された回数の推移(内閣府HP)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h19/BOUSAI_2007/html/zuhu/zuhu_01_2.htm
※2 猛暑日の年間日数の変化(JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターHP)
http://www.jccca.org/chart/chart06_04.html