研究テーマ

ホームスタート ─孤育て家庭を支援しよう─

待望の赤ちゃんが生まれて始まる希望に満ちた新生活。その一方で、子育てに一杯いっぱいになるあまり、地域から孤立して、不安や悩みを抱えるご家庭が増えています。そんな「孤育て世帯」を訪問して支援の手を差しのべるのが「ホームスタート」の活動。イギリスをお手本に始まった地域密着型のボランティアの取り組みが、いま日本全国に広がっています。

子育て家庭のSOS

育児経験者ならおわかりと思いますが、子育ては楽しくもある反面、本当にたいへんです。おじいちゃん・おばあちゃんが身近にいる場合は、まだ相談したり手を借りたりできます。でも、結婚して見知らぬ土地に移り住み、周囲の助けが得られない場合は、すべてのプレッシャーが育児に専念するママ・パパにかかってきます。
たとえば、近くに知っている人がいないので、外に出られずに孤立しがちになる。ミルクのあげ方がわからない。泣きやまない赤ちゃんへの対処がわからないなど。悩みやストレスを一身に抱え込み、押しつぶされそうになっている家庭があります。そんなSOSを発している子育て家庭に「ホームビジター」と呼ばれるボランティアさんが出向き、支援するのが、「ホームスタート」の活動です。

ボランティアの力

ご家庭を訪問する「ホームビジター」は、同じ地域に住む子育て経験者のボランティアさんたち。地域のみんなの力を借りて子育て世帯を応援しようという理念が、「ホームスタート」の根底に流れています。「ホームビジター」が大切にしているのは「傾聴」と「協働」の2つ。「傾聴」とは、親の気持ちを受けとめて話を聴くこと。「協働」とは、親と一緒に家事や育児をして、外出などをすることです。
「私たちが大切にしているのは、素人性と当事者性なんですね」と語るのは、NPO法人「ホームスタート・ジャパン」で事務局長を務める山田幸恵さん。フレンドリーなご近所さん感覚で、利用者に寄り添って、一緒に家事をしたり、子どもと一緒に公園に行ったり、また、近くの「子育てひろば」に寄ったりして、心身の両面で子育て中の親をサポートします。行政の立場ではできない支援を、子育て経験のあるボランティアさんが行うことに、「ホームスタート」ならではの意義があるのです。

ホームスタート・マジック

ホームスタートの支援は、未就学のお子さんがいる家庭なら、どなたでも受けられます。原則として訪問は週に1回、計4回行われます。ご家庭にうかがうのは、ボランティアの「ホームビジター」たち。とはいえ、見知らぬ人がいきなり家庭に入るのはちょっと心配。そこで訪問を開始する前に「オーガナイザー」という調整スタッフが訪れて、利用者のお気持ちや、どんな支援がほしいかなどを詳しくうかがうそうです。
また、訪問する「ホームビジター」も全部で37時間の研修を受けます。この中でボランティアさんたちは「おもいやり」と「おせっかい」の違いや、過度な支援によるリスクなどを学びます。「たった4回の訪問でどれだけ変わるのか、はじめは私たちも半信半疑でした」という山田さん。でも、ちょっとしたきっかけで利用者の気持ちが前向きに変わるのを見るたびに、「不思議だな」「人の力ってすごいな」と思うようになったとか。この訪問がもたらす高い効果を、「ホームスタート・マジック」と呼ぶそうです。

完成度の高い仕組み

「ホームスタート」は1973年にロンドン郊外の街で、マーガレット・ハリソンさんという女性が始めました。彼女は日本でいう「子育てひろば」のような施設のボランティアスタッフでした。子育て中の親御さんと接するなかで、公的な専門職の支援だけでなく、もっと親に寄り添った、苦労やたいへんさを分かちあえる活動が必要と感じたのです。
日本の「ホームスタート」は、イギリスから学びながら、2009年頃から本格的に始まりました。山田さんは「この仕組みは知れば知るほどよくできた完成度の高いもの」とおっしゃいます。理由は活動を振り返るプロセスがしっかりあること。「孤立感を解消したい」「イライラを落ち着かせたい」「下の子が生まれたばかりで上の子と遊べない」等々、事前にあげた困りごとをちゃんと解消できたか、「利用者」の主体性を大事にしながら、「ホームビジター」と「オーガナイザー」と一緒に振り返るのです。
利用者からは「とても助かった」「子育てが楽しく思えるようになった」「子どもたちと笑顔で過ごせるようになった」という声が。また、訪問するボランティアさんも「自分でも力になれて嬉しい」「喜んでもらえてよかった」など、双方ともに高い満足度が得られる活動になっています。

ホームスタートの活動母体はNPO法人や社会福祉法人などの非営利団体です。しかし、この活動が「孤立家庭と地域の支援サービスの橋渡しになる」「虐待の早期予防につながる」ことから、公的なものと位置づけ、行政との協働事業として行うケースも増えています。
現在、ホームスタートの活動拠点は全国に83カ所あります。でも、「まだまだ足りない」と山田さん。「地域の人が地域の子育てを支える取り組みなので、各市区町村単位で必要ではないか」とおっしゃいます。少子化が問題となっている今、ぜひとも全国に広がってほしい有意義な活動だと感じました。

[関連サイト]
特定非営利活動法人 ホームスタート・ジャパン
ホームスタートジャパン

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生活雑貨

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