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ラニーニャの夏

「エルニーニョ」という言葉をご存じですか? 南米のペルー沖の海面水温がいつもの年より高くなり、世界各地に異常気象をもたらすことで知られる現象です。その反対が、「ラニーニャ」。同じペルー沖の海面水温が、逆にいつもより低くなる現象です。この夏、気象庁は2014年夏から続いていたエルニーニョが終わり、ラニーニャが発生するかもしれないと予測しています。ラニーニャの夏は、どんな夏になるのでしょう。

太平洋は大きなプール

夏の話題に入る前に、まず、ラニーニャについて。ラニーニャはスペイン語で「女の子」という意味があるそうです。エルニーニョが「男の子」なので、その反対の現象という意味でこう呼ばれるのでしょう。女の子とはいえ、ラニーニャは決しておとなしくしているわけではありません。エルニーニョと同じように気候に影響し、各地に異常気象をもたらすことで知られているのです。
ラニーニャの年は、南米のペルー沖の海面水温が低くなります。こんなに遠くの海の温度が、なぜはるばる離れた日本の気候に影響するのでしょうか。その理由は、太平洋がひとつのプールのようにつながっていること。世界地図を見るとわかりますが、ユーラシア大陸、北米大陸、南米大陸、オーストラリア大陸、この四つの陸地に太平洋は囲まれ、閉じこめられています。プールの水は、それがどんなに大きくてもひとつにつながっているので、遠くで起きた現象が思いもよらない形で伝わっていき、影響を及ぼすのです。

海の温度が大気に影響する

寒い冬の日、カップに入ったコーヒーに手をかざすとほんのり温もりを感じますね。これと同じで、海水には周囲の大気を温めたり冷やしたりする働きがあります。寒いはずの高緯度地方でも、沿岸に暖流が流れていると比較的暖かいのはこのためです。
ラニーニャの年は、南米のペルー沖の海面水温が低くなるので、この海域の気温は低めになります。一方、太平洋の西側、インドネシアあたりの熱帯は気温が高いので、東西の気温差が大きくなります。通常、赤道付近には「貿易風」という東風が吹いていますが、東西の気温差が大きくなるとこの東風が強くなり、太平洋の熱い海水を東から西に向かって吹き寄せるようになります。このためラニーニャが起きる年は、太平洋の西側の海面水温がいつもより高くなります。この異常な海面水温の上昇が各地に異常気象をもたらすと考えられています。

ラニーニャの夏は?

さて、いよいよ日本の夏の話です。日本の夏の気候に最も大きな影響を与えるのは、梅雨明けごろに日本列島に張り出してくる「太平洋高気圧」。この高気圧の勢力が強い年は、日本は晴天が多くなり、夏らしい夏になります。
で、結論からいうと、ラニーニャが発生する年は、太平洋高気圧の勢力が強まる傾向にあります。理由は、インドネシアやフィリピン周辺の海面水温が高くなるため。熱い海からは上昇気流が盛んに起こりますが、空に昇った気流は上空まで到達すると、今度は下降気流となって降りてきて、近くにある高気圧の勢力を強めることが知られています。つまり、西太平洋の海面水温が高いラニーニャの年は、太平洋高気圧の勢力が強くなり、日本列島は夏らしい夏になると予想されるのです。

2010年猛暑の再来?

エルニーニョやラニーニャが日本の気候に与える影響が大きいため、気象庁は1992年4月に「エルニーニョ監視センター」を設立し、熱帯太平洋のデータを収集し、監視するようになりました。この監視センターでは毎月1回「エルニーニョ監視速報」を出しますが、2016年5月の発表で、「エルニーニョ現象は春の間に終息するとみられ、夏にはラニーニャ現象が発生する可能性が高い」と報告しています。前回ラニーニャになったのは2010年のことですから、ラニーニャが発生すれば6年ぶりということになります。
となると、気になるのが6年前の夏の気候です。2010年、この年の夏は、覚えている方もいらっしゃるかと思いますが、「観測史上最も暑い夏」になりました。梅雨明けすぐに全国各地で猛暑日を観測し、7月の平均気温は北日本で平年比+2.0℃、東日本で+1.6.℃。8月はさらに暑くなり、観測史上最も暑い8月になったのです。この記録的な猛暑は9月になっても続き、過去50年で最も厳しい残暑をもたらしました。もし仮に、気象庁の予想するようにこの夏ラニーニャが発生すれば、パターンとしては2010年の夏に似てくることになります。またしても記録破りの猛暑になるのでしょうか。

この夏、ラニーニャが発生するかどうかはまだわかりません。また、仮に発生したとしても、必ずしも猛暑になるとは限らないそうです。気候は多くの要素が複雑に絡み合って決まるので、単純に「エルニーニョ=冷夏」「ラニーニャ=猛暑」とは行かないとのこと。
とはいえ、昨今の猛暑は「暑い」を通り越し、生命の危険を感じるレベルにまでなっています。実際、2010年の猛暑のときには夏場の3カ月で500人近い人が熱中症で亡くなったと聞きます。万一猛暑になった場合は、こまめに水分を補給し、激しい運動を避けるなどして、十分に体調に気をつけ、夏を乗り切りたいものですね。

※参考資料:気象庁 エルニーニョ/ラニーニャ現象

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