研究テーマ

ハロウィーン

「クリスマス」や「バレンタインデー」に続き、日本でも祝う人が増えてきた「ハロウィーン」。でも、よく考えてみると、「ハロウィーンっていつ?」「なぜ祝うの?」「どうして仮装するの?」など、日本人にとっては謎だらけ。今回はリサ・モートンさんというハロウィーン研究の第一人者が著した「ハロウィーンの文化誌」という本をもとに、このミステリアスな祝祭をひも解いてみました。

ハロウィーンの起源

カボチャのランタンを手に、魔女や幽霊の仮装に身を包み、夜の街を練り歩くハロウィーン。英語圏で古くから親しまれてきた祝祭ですが、リサさんの著書によると、欧米でも「驚くべきことに、『ハロウィーン』についてはほとんどの人がその名の由来すら知らない」そうです。三省堂の大辞林には「万聖節(11月1日)の前夜祭。古代ケルト起源で、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭り。」とあります。そう、ハロウィーンは10月31日の宵に行われる一夜限りの祝祭。日本では月末の土日に行うところもありますが、それは商業ベースに乗ってのことで、正式なものではありません。
「ハロウィーン」の名は、万聖節の前夜「オールハロウズ・イブ」に由来します。万聖節は英語で「オールセインツ・デー」ですが、西暦1500年以前には聖人を「ハロウズ」と呼んでいたらしく、「ハロウズ・イブ」が転じて「ハロウィーン」になったとか。万聖節はキリスト教の"諸聖人を記念する日"で、カトリック教徒の多いフランスでは国民の休日にもなっています。
さて、ここで疑問がひとつ。キリスト教の聖人を祝うおごそかな日の前夜に、なぜあのようなまがまがしい衣装に身を包み、ばか騒ぎをするのでしょうか。それを知るには「古代ケルト族」の風習を理解する必要があります。

ケルトの祝祭「サムハイン」

ケルト人は古代のある時期、「ヨーロッパおよびイギリス諸島のほぼ全域に広がり、紀元前400年頃には数か月ではあるがローマをも占領した」と「ハロウィーンの文化誌」にあります。ケルト人はドルイド教というキリスト教から見れば"異教"を信仰していました。「この世とあの世の境の扉は年に一度開かれる」と彼らは信じ、それを祝うのが「サムハイン(11月1日)」という祝祭。この日はケルト人にとっての新年の始まりであり、盆と正月を合わせたような賑やかなお祭りでした。ケルトの1日は日没とともに始まるので、サムハインのスタートは夕刻から。つまり、これが10月31日の夜に始まるハロウィーンの起源になりました。
ケルトの「サムハイン」がキリスト教の「万聖節」と結びつくのは、紀元後7世紀になってから。当時、ヨーロッパの全域にカトリック教会が広まり、異教徒であるケルト人の改宗が進みました。改宗は「文化的混合主義」といって、現存する異教の寺院や習慣を尊重しながら行われ、8世紀半ばに、ローマ教皇グレゴリウス3世が、カトリックの祝祭日である「万聖節(5月13日)」をケルトの「サムハイン」の日である11月1日に移し変えたとか。ここに10月31日の夜に「サムハイン」を祝い、11月1日に「万聖節」を祝うという、ハロウィーンの原型ができあがったようです。

アメリカで開花したハロウィーン

1854年、アイルランドで植物の疫病が広がり、大飢饉が発生しました。以後、多くのアイルランド人やスコットランド人が新天地を求めてアメリカに渡りました。ケルト人を祖に持つこの民族の移動とともに、アメリカに持ち込まれたのが、ハロウィーンの習慣でした。ケルト起源のこの祝祭は、その後、20世紀アメリカのさまざまなカルチャーと混合し、独自の発展を遂げていきます。
たとえば、英国やスコットランドでカブをランタンにしていたものが、「ジャック・オー・ランタン」というかぼちゃに変化。さらに、ポストカードの流行や映画、テレビドラマの影響を受け、魔女、黒猫、案山子といったおなじみのシンボルに加え、ドラキュラ、フランケンシュタイン、ゾンビ、シザーハンズなどのキャラクターが祝祭に加わりました。また、カナダの中西部でクリスマスのときに子供たちが家々をまわってお菓子をおねだりする風習が、1930年代にアメリカに伝わり、「トリック・オア・トリート」に発展したとのこと。この習慣に目を付けた小売業界が、ハロウィーンビジネスとしてキャンディやコスチュームを販売するようになり、「ハロウィーン」は巨大なアメリカ商業主義と結びつき、クリスマスに次ぐ盛大なイベントとして全米に広がっていきました。

日本では1983年、原宿表参道商店街が最初の大規模なハロウィーンパレードを実施。以来、年を経るごとにこの祝祭は盛大になり、今では渋谷、六本木、川崎などの街に大勢の人が繰り出し、"ハッピー・ハロウィーン"を祝うようになりました。
しかしながら、そこにはもはやケルトの祝祭や、カトリックの万聖節の面影はありません。アメリカンカルチャーに日本のコスプレ文化が融合した、独自のサブカルチャー・イベントとして楽しまれるようになっています。

さて、10月31日の夜、あなたはハロウィーンを祝いますか? 祝うとすればどんな風に祝いますか?
ご意見、ご感想をお寄せください。

※参考図書:「ハロウィーンの文化誌/リサ・モートン著 大久保康子訳」(原書房)

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