いろいろな手帳
「来年の話をすると鬼が笑う」といいますが、手帳だけはちょっと別。新年を迎えるにあたって、新しい一冊をお求めになる方も多いことでしょう。最近は単に予定を書き込むだけではなく、趣味やライフスタイルに合わせて使えるいろんな手帳があるといいます。今回は、一年の計を立てるためにも必要となる「手帳」について考えてみました。
手帳の歴史
そもそも手帳とは何でしょう。「携帯できる小形の帳面」という本来の意味から考えると、その裾野はかなり広がりそう。メモや日記も含めるなら、古来の日本にあった「草子」なども手帳の仲間に入りそうです。江戸時代には、役人が検地をするときに使った「野帳(のちょう)」というものがあって、これは半紙を横折りにし、実測した土地の番地や面積などを記す手控えのこと。携帯できるメモという意味では、日本の手帳の走りといえるかもしれません。
ページを日付で分割した今の手帳に近いものが現れるのは、イギリスで産業革命が起きてから。予定が書き込めるので、ロンドンの金融街で忙しく働くビジネスマンたちに重宝されたそうです。日本では明治維新が起き、文明開化とともに西洋から手帳が入ってきました。1868年(明治元年)には、すでに警察手帳や軍事手帳が刷られていたそうです。鉄道や電気より早かったことから考えると、手帳こそが近代化の象徴といえるのかもしれませんね。ちなみに日本で最初に手帳を使い始めたのは、パリ帰りの福沢諭吉だったといわれています。
可能性を広げる手帳
手帳評論家の舘神龍彦さんは、著書の中で手帳を"人生の可能性を拡張するツール"と定義しています。なるほど、人間に与えられた時間は限られています。1日24時間、1年365日、これをどう使うかで人生の可能性は広がるのかもしれません。実際に企業家や大学教授など、著名な文化人の名前を冠した手帳は数多く、「人生は手帳で変わる!」「成功する手帳術!」といった言葉もよく見かけます。
こういった"自己啓発"の目的で手帳を使った初めての人は、アメリカの建国の父と呼ばれるベンジャミン・フランクリンのようです。政治家であり、雷が電気であることを発見した物理学者でもあるフランクリンは、22才の頃に自分の人生にとって何が大切かを考え、その価値観を「13徳」にまとめあげたそうです。そして、小さな手帳を作り、その価値観を1ページずつ割り当て、日々それを見ることで生活を正していったとか。まさに世界初の自己啓発手帳といえるでしょう。このベンジャミン・フランクリンが残した有名な言葉が「Time is money(時は金なり)」。手帳によって人生を開花させた偉人の肖像画は、アメリカで最も価値ある百ドル札に刻まれています。
趣味を楽しむ手帳
堅苦しいことは抜きにして、「趣味」を楽しむために作られた手帳もあります。たとえば静岡大学名誉教授の小和田哲男さんが監修した「戦国手帳」。各月ごとに戦国武将の人物や名言が紹介され、また、その日起こった戦国時代の出来事などが載っています。「ああ、今日が本能寺の変か」「明日は関ケ原の戦いね」などと知る楽しさがあるのです。㈱シーガルから出ている「歳時記手帳」は、旧暦の「二十四節気」や「七十二候」を載せたもの。小寒、大寒、立春、雨水などの言葉とともに、月の満ち欠けや季節の風物詩が載っていて、四季の移ろいを感じることができます。俳句をたしなむ方などにはうってつけでしょう。この他にも、海上保安庁OBが監修した「海上保安ダイアリー」や、乗り鉄や撮り鉄に人気の「鉄道手帳」、全国の潮時表が別冊で付いてくる「つり手帳」など、それはもうさまざまな種類の手帳が世に出ています。
古くなるという価値
もうひとつ、手帳には日常の出来事を記録する「ライフログ」という機能があります。スケジュール欄に起床時間や就寝時間、三度の食事で食べたものなどを記しておくと、健康管理やダイエットに役立つのです。もともと「ライフログ」はデジタルで記録することを意味しますが、紙の手帳に書き込むのには、それなりのメリットがあります。なぜなら、肉筆は時とともに古くなるから。デジタルで残したものは時間が経っても変化しません。写真も文字も昔のまま。その点、手帳は違います。鉛筆、ボールペン、万年筆、いかなる筆記具を使っても、書いたものは必ず古くなります。変色したり、かすれたり、忙しい時期に書いたものは筆致が乱れていたりします。合格や結婚、出産など、人生のその時々の場面で抱いた感情や想いが、手帳には古びた文字となって残ります。何年も何十年もの時を経て、手書きの手帳はかけがえのない宝ものになっていくのです。
仕事に使うにしろ、趣味に使うにしろ、予定を書き込む手帳には、期せずして自分の人生が現れます。そういう意味でどんな手帳を選ぶかは、どんな年にしたいかを考えることに似ているのかもしれません。
来年、あなたどんな手帳を使いますか? 「こんな面白い手帳がある」「私はこんな使い方をしている」といった話がありましたら、ぜひお聞かせください。