研究テーマ

干支(えと)

毎年、正月になると意識されるのが今年の「干支(えと)」。年賀状に「酉(とり)」のデザインをあしらった方も多いと思います。さて、そもそもこの「干支」とは何でしょうか。なぜ動物の名前が振りあてられているのでしょう。

十二支

「日本の民話えほん」に「十二支のはじまり」というものがあります。この絵本によると、ある年の暮れに、神様が動物たちにおふれを出し、正月の朝に御殿に来たものから順番に、一年ずつその年の代表にするといったとか。動物たちは我こそいちばんのりだと大騒ぎしたそうです。その場に猫もいたのですが、うっかり日付を忘れてしまい、鼠に「かみさまの ところに あいさつに いくのは いつだったっけ」と尋ねます。すると鼠は「しょうがつの 二日だよ」とわざと一日遅らせて教えました。
さて、多くの動物の中で、まっ先に御殿に着いたのは牛でした。牛は自分が遅いことを知っているので、前の晩から出かけることにしたのです。その牛の背にこっそり飛び乗ったのが鼠でした。牛は鼠が乗っていることも知らず、神様の御殿へと向かいます。
誰よりも早く御殿に着いた牛は、そこで門が開くのを待ちました。そうして朝になり、牛がのっそりと立ち上がって門をくぐろうとしたとき、背に乗っていた鼠がすばやく門に飛びこみ、一番乗りになってしまったのです。これで「鼠」と「牛」の順番が決まり、その後ぞくぞくと、「虎」「兎」「竜」「蛇」「馬」「羊」「申」「鶏」「犬」「猪」が御殿の門をくぐりました。こうしていわゆる十二支、「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」が決まったというお話です。
ちなみにこの話にはオチがあって、鼠にいわれた猫は、翌朝いちばんに御殿に出かけていき門を叩きます。ところが、神様に「なんだ いまごろ やってきて おそい おそい」といわれ、ようやく鼠にだまされたことに気づくのです。以来、猫は鼠を見ると追いかけるようになったということです。

十干

日本では「十二支」のことを「干支(えと)」といいますが、厳密にいうと十二支と干支(えと)は別のもの。干支はもともと「六十干支」といい、十二支の「支」と十干の「干」を組み合わせてできたものです。では、「十干」とは何のことでしょう。
稲田義行さんの著書「現代に息づく 陰陽五行」によると、「十干」は「数」、とりわけ「日数」を数えるために古代中国で生まれたものだとか。月の満ち欠けを基準にする太陰暦では、一カ月は約30日。それを3分割すると10日単位の「旬」になります。「10」はちょうど両手の指の数なので、10本の指にそれぞれ「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の文字を割りあて、旬を数えられるようにしました。つまり、「十干」は数字代わりに用いられたのですね。年配の方ならご存じと思いますが、日本でもかつては順位や成績を示すとき、数字の代わりに「甲・乙・丙・丁……」の文字を使っていました。

還暦

「十干」は10個の文字、「十二支」は12個の文字で構成されています。
十干……甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸
十二支…子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥
両者を先頭から「甲・子(きのとね)」「乙・丑(きのとうし)」と組み合わせていくと、最後に二文字が余ります。これにふたたび十干の「甲」「乙」を先頭から組み合わせていくと、次は最後に四文字余ります。こうして十干が一巡するごとに十二支が二文字ずつズレていき、これを順送りしていくと、ちょうど十干が六巡したとろで、干支(えと)が先頭に還ります。これが60年ごとにひとめぐりする「還暦」という概念です。
「十干」だけでは10まで、「十二支」だけでは12までしか数えられなかったものが、「干支」を使えば60まで数えられるようになります。これによって、月日や歳まわり、時刻や方位など、より複雑なものが表現できるようになりました。今日では年賀状のテーマぐらいにしか使われなくなった干支ですが、かつての日本では、歳や暦を数えるのに数字代わりに使われており、日常生活に欠かせない大切な概念だったのです。そうして、中国ではこの「干支」に「陰陽五行」の思想が加わって、暦や方位を自在に扱う壮大な占いの体系が誕生しました。方位学、四柱推命、天中殺、空亡などは、この干支の概念から派生しています。

さて、今年の干支は「酉(とり)」です。六十干支でいえば「丁・酉(ひのととり)」の年になります。五行でいえば「丁(ひのと)」は「火の弟」と書き「火」にあたり、「酉」は成熟・熟成が完成・完了した状態で「金」にあたるとか。「金」は「火」によって融かされるため、相性のよくない「相克」の関係になるそうです。
干支についてのさまざまな見解を見ていくと、「丁・酉(ひのととり)」の年は「革命の岐路」や「転機の進行の予感」といった言葉が目につきます。あくまでも占いのうえの話ですが、どうやら今年は波乱含みの一年になりそうですね。

あなたにとって、この一年はどんな年になるのでしょうか。良い年となることを心よりお祈りいたしております。

※参考図書:
「十二支のはじまり/岩崎京子・文 二俣英五郎・画」(教育画劇)
「現代に息づく 陰陽五行/稲田義行著」(日本実業出版社)

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