18歳からの選挙権
一昨年、2015年6月に「公職選挙法」が改正され、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられました。「公職選挙法」の改正は、なんと70年ぶりとのこと。そして、去年の夏に行われた参議院選挙で、初めて18歳と19歳の若者が投票を行いました。はたして若者たちは投票所に向かったのでしょうか。今回は若い世代と選挙制度について考えてみました。
明治以来5回目の改正
今でこそすべての成人男女に与えられている選挙権ですが、初めはごく一部の人にのみ与えられた特権でした。日本で最初の選挙は、明治憲法が発布された翌年の1890年に行われた衆議院選挙。このときは国税を15円以上納めている25歳以上の男子にのみ選挙権が与えられました。「なーんだ、たったの15円か」と思うかもしれませんが、そのころの15円は今の1000万円に相当する大金。なので有権者数は45万人ほどで、人口の1.1%ほどだったそうです。これではとても民主主義とは呼べませんね。
その後、1900年と1919年の2回にわたって納税条件が引き下げられ、1925年になると税金のしばりが消え、すべての25歳以上の男性に選挙権が与えられました。しかし、女性に選挙権が与えられたのは、それから20年も経ってから。終戦直後の1945年にようやく「20歳以上の男女」に選挙権が与えられました。そうして70年の月日が経ち、今回5回目の改正で、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのです。
選挙権年齢引き下げの理由
なぜ今回、選挙権年齢は引き下げられたのでしょうか。総務省と文部科学省が連携して作った高校生向けの副教材「私たちが拓く(ひらく)日本の未来」の中にそのヒントがありました。以下、文章を引用すると、「今回、選挙権年齢が満20歳以上から、満18歳以上に引き下げられました。これは、皆さんが、様々なメディアを通じ多様な情報に接し、自分の考えを育んできた世代であり、また、少子高齢化の進む日本で未来の日本に生きていく世代であることから、現在、また、未来の日本の在り方を決める政治に関与してもらいたいという意図があるのです。なお、世界的にみると、18歳までに選挙権が認められている国は全体の約92%であり、今回の引下げは世界の流れにも沿ったものとも言えます。」
要するに、これからの少子高齢化社会を支えるのは今の若者であり、その若者の声を政治に反映するのは当然のこと。世界的に見ても選挙権は18歳以上が標準で、それに合わせて選挙権年齢を引き下げた、ということのようです。
分かれた明暗
では、初めて選挙権を与えられた若者たちは選挙に行ったのでしょうか。昨年7月に行われた参議院選挙で面白い結果が出ました。総務省の発表によると、投票率(選挙区)は、18歳が51.28%だったのに対して、19歳は42.30%にとどまりました。年齢によって8.98ポイントもの差が出たのです。理由として考えられるのは、18歳には高校生が含まれ、学校での主権者教育がある程度功を奏したこと。また、「18歳選挙権」という言葉が話題になり、「当事者意識」が持てたことも寄与したようです。一方、19歳は大学に進学する際に住民票を移さないなどの原因があり、当事者意識も希薄だったため、低投票率にとどまったと見られています。
地方によっても差が現れました。18歳の投票率はトップの東京都が60.5%だったのに対して、最下位の高知県は35.3%にとどまりました。都市部で投票率が伸びたのは、学生が中心になって組織した「SEALDs」などの団体の影響があったからでしょうか。一方、地方が低かった背景には、やはり住民票の問題があるのかもしれません。投票は住民票のある区市町村で行われます。昨年の参院選の投票日は7月10日でした。多くの大学が試験期間中で、投票のためにわざわざ帰郷した学生は少なかったようです。
シルバーデモクラシー
博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんの著書「18歳選挙世代は日本を変えるか」の中に、「シルバーデモクラシー」という言葉が出てきます。今の高齢者世代は人口で若者世代を圧倒し、そのため「高齢者の社会保障や年金、医療に関する部分が手厚くなってしまいがち」というのです。実際、1947~49年生まれの「団塊の世代」は1学年に260万人以上いるのに対して、今の18歳の人口は120万人程度と半分にもなりません。加えて「若者の政治離れ」の問題があります。2014年の衆議院選挙の投票率は、60代が68%だったのに対して、20代は32%しかありませんでした。絶対人数が少ないうえに、投票率も低い。それ故、少子高齢化社会を背負っていく若者の声が、政治に反映されにくくなっているのです。
原田さんの著書によると、世界的に見ても若者の政治離れは進んでいて、とくに「安定した先進国では政治への関心が低くなり、投票率が低くなる傾向」にあるとのこと。「現状に満足してしまっている今の日本の若者たちに、未来はもっと理想的に変えられるんだという希望を持たせることが重要」だと説いています。
民主主義は、国民一人ひとりの総意で成り立つもの。投票率が低いということは、一部の人たちの政治独占を許すことに他なりません。「選挙権」は、長い歴史の中で壮絶な道のりを経て市民が勝ち取ってきた大切な「権利」です。次に選挙があるときは、投票したくてもできなかった時代の人々のことを思い、投票所に向かってみてはいかがでしょうか。
参考資料:「私たちが拓く日本の未来」(総務省/文部科学省)
参考図書:「18歳選挙世代は日本を変えるか/原田曜平」(ポプラ新書)