研究テーマ

聴く力

「傾聴」という言葉をご存じですか。もともとはカウンセリングにおける技法のひとつで、臨床心理士の方などが相談者とコミュニケーションするときに意識する聴き方・話し方のマインドです。その「傾聴」の技法を日々のコミュニケーションに活かそうというのが「日常傾聴」という考え方。今回は夫婦や親子間の会話に活かせるかもしれない「聴く力」に焦点を当ててみました。

傾聴って何?

「傾聴」の歴史をたどっていくと、ジークムント・フロイトという人物に出会います。そう、「夢判断」で有名なあのフロイトですね。フロイトは今から100年以上前にオーストリアで活躍した精神分析学者で、「自由連想法」や「無意識研究」などで功績をあげ、現在の精神医学に多大な影響を与えました。
精神科医であったフロイトは、1900年代の初頭に「人の話を聞くとは何か」ということに着目します。そして、「人を元気にするためには話しを聞くことがいちばん」という考えにもとづき、話の聞き方を体系的にまとめた「お話し療法」という治療法を確立します。ここに今日の「傾聴」の原点をみることもできるそうです。ただし、この分野の学問はその後あまり発展せず、「傾聴学」なるものも確立されませんでした。だから、「傾聴って何?」という問いの答えは専門家によってまちまちだとか。書店に行くといろいろな傾聴の本が並んでいますが、書いてある内容は著者によって異なるそうです。

3.11で広がった傾聴

「傾聴」が世間一般に知られるようになったのは、東日本大震災からだといいます。「傾聴ボランティア」と呼ばれる人々が被災地に入り、避難所や仮設住宅をまわり、人々の話を聴く活動を行ったのです。傾聴を学んだ人は、相手の話を否定せずに、ありのままに受け止めて聴く訓練を積んでいます。相手の話に耳を傾け、受け止めることで話し手の心に寄り添い、その方らしい生活を取り戻すお手伝いをしていくのです。 心理カウンセリングに用いる傾聴のこのマインドを日常会話に活かせないものか、ということで生まれたのが「日常傾聴」という考えです。たとえば、思春期のお子さんや定年退職した夫とのつきあい方は難しいもの。介護する身、される身のコミュニケーションで悩む人も少なくありません。身内であるばかりに、ついついキツイ言葉を使ってしまうことも。ぎくしゃくしがちな日々の会話をなんとかしたい、そんな思いから「日常傾聴」を学ぶ人が増えているそうです。

傾聴のコツ

心理カウンセラーで、「アクティブリッスン!」という本の著者である澤村直樹さんから、"よい聴き手"となるためのコツをうかがいました。それには「見つめる」「ほほえむ」「うなずく」「声をかける」「ほめる」という「5つの姿勢」が役立つとか。人には「話してごらん」といっても「話したくないとき」もある。まず「この人は聴いてくれそう」「この人なら話しても大丈夫」と相手に感じてもらうことが大切で、そのために「5つの姿勢」が機能するそうです。
「傾聴」の世界では、単なる「聞く」ではなく「聴く」という文字を使います。この文字はよく見ると、「耳」と「目」と「心」で成り立っています。ただ聞くのではなく、相手の状態をよく見て、目と耳と心を使って聴いていく、それが傾聴なのでしょう。「人の心は目に見えないので、本心はわかりません」と澤村さん。「その人が語ることの表面だけを見ると、本質を見誤ることがあります。だから、"わからないことをわかろうとする姿勢"が傾聴ではだいじなのです」。相手に本心で語ってもらうために"話しやすい雰囲気"をつくる、そのために役立つのが「傾聴」の姿勢なのです。

言いたいことを二言目に

もうひとつ、澤村さんからふだん使いできそうな"日常傾聴の技"を教えていただきました。それは「言いたいことを二言目に置く」というもの。たとえば相手が何かを言ったとき、「それ、違うんじゃないの」と思っても、その感想はとりあえず置いといて、まずは「ああ、そうなんだ」と受けとめる姿勢を見せること。もし、言いたいことがあるなら、それは2番目に述べるといいそうです。人は頭から否定されると「ムッ」としますが、はじめに意見が受けとめられると、案外心にゆとりが生まれるもの。「言いたいことを二言目に置く」ことで、要らぬいさかいを防ぎ、"穏やかな"コミュニケーションを保つことができるといいます。ただし、ここで紹介した「5つの姿勢」や「二言目」の技などは、毎日使っていると気疲れしてしまいます。「相手の気持ちを大切にしたい"ここぞ"というときに、傾聴を使っていただければ」と澤村さんはおっしゃっていました。

家族や友人との会話に役立ちそうな「傾聴」ですが、一般の人でも「市民講座」などで気軽に学ぶことができます。また、自治体や社会福祉協議会でも傾聴の講座を開いているところがあるとか。興味のある方は、お住まいの自治体に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

参考図書:「アクティブリッスン/澤村直樹」(すばる舎)
参考資料:アクティヴリッスン ホームページ

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