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竜巻

1996年に「ツイスター」というハリウッド映画がヒットしました。主人公は竜巻を追いかける「ストーム・チェイサー」と呼ばれる研究者。この映画では、人や車を吹き飛ばし、建物すら倒壊させてしまう竜巻の恐ろしさが描かれていました。日本ではあまりなじみのない竜巻ですが、例年平均で20件ほど発生し、死者を含む被害も出ています。夏から秋にかけて発生が増えるといわれる竜巻ですが、万一遭遇したとき、私たちはどうすればいいのでしょう。

竜巻街道

「竜巻」と聞いて思い浮かぶ映画がもうひとつあります。1939年にアメリカで封切られた「オズの魔法使い」です。カンザスの農場に住む主人公ドロシーは「虹のかなたのどこか(Somewhere Over the Rainbow)」によりよい場所があると信じる女の子。ある日、竜巻に巻き込まれて、愛犬や自宅もろとも魔法の国オズへと吹き飛ばされてしまいます。この映画の舞台となったカンザス州は、アメリカ合衆国のど真ん中にあります。そのすぐ南にあるのが「ツイスター」の舞台となったオクラホマ州。そう、広大な平原の広がるアメリカの中央部は、別名「竜巻街道(Tornado Alley)」とも呼ばれる竜巻多発地帯として知られているのです。気象庁のホームページによると、「米国では、年平均で1,300個(2004~2006年の統計)もの竜巻が確認」されているとか。世界の竜巻の約8割がアメリカで発生しているというデータもあります。

想像を絶する破壊力

「竜巻で飛ばされたドロシーが生き残れたのはおとぎ話だからで、もちろん実際に巻き込まれたらひとたまりもありません。竜巻の中心ではどんな台風よりも強い風が吹いているからです。竜巻の強さは1971年にシカゴ大学の藤田哲也博士が考案した「Fスケール」で分類されています。「F0~F5」までの6段階があり、数字が大きいほど強くなります。ちなみに日本で発生した最強の竜巻はF3のもの。これでも風速は「72m/s~92m/s」で「壁が押し倒され住家が倒壊する」ほどの強さだとか。「汽車は転覆し、自動車は持ち上げられて飛ばされる。森林の大木でも、大半折れるか倒れるかし、引き抜かれることもある」というから、その威力はすさまじいものです。
記録上最大の被害をもたらした竜巻は、1925年3月、アメリカのミズーリ州、イリノイ州、インディアナ州にまたがって移動したF5の竜巻で、死者695名を数えました。最近でも2011年5月にミズーリ州でF5の竜巻が発生し、158名もの死者を出しています。

発生のメカニズム

竜巻は多くの場合、雷雨をもたらす「積乱雲」という雲に伴って発生します。積乱雲は「入道雲」とも呼ばれ、空高くむくむくと発達しますが、この雲の中では激しい上昇流が吹き荒れ、雲全体が巨大な吸引機となって、地上の空気を吸い上げています。一方、吸い上げた空気は行き場がなくなり、地上に下降流として降りてきます。その風が地上付近の風とぶつかって気流の乱れが生じます。そう、積乱雲の近くでは上下左右にさまざまな風が吹き乱れ、ぶつかりあって渦巻いているのです。その渦の中のひとつがたまたま発達し、強い上昇流と結びつくと、竜巻となって姿を現すのです。
特に大きな被害をもたらすのは、「スーパーセル」と呼ばれる「超巨大積乱雲」に伴って発生する竜巻。通常の積乱雲は数km~10kmほどの大きさですが、スーパーセルはその何倍もの規模があります。スーパーセルは上層と下層の風向きの違いによってゆっくりと回転をし、この回転が気流の乱れによって生じた回転と結合すると、竜巻が発生します。スーパーセル自体が巨大な掃除機となり、空気もろとも地上のものすべてを空に吸い上げていくのです。F5スケールの竜巻では、中心付近で「117 m/s~142m/s」の強風が渦巻き、「自動車、列車などがもち上げられて飛行し、とんでもないところまで飛ばされる」こともあるそうです。

竜巻への備え

日本でも竜巻の被害は出ています。最悪のものは、2006年11月7日に北海道の佐呂間町で発生したF3の竜巻で、死者9名を数えました。これをきっかけに、気象庁は2008年3月から「竜巻注意情報」を発表するようになりました。この注意情報が出た場合は、各自治体の防災行政無線で住民に知らされるので、あらかじめ竜巻に備えることができます。また、「竜巻発生確度ナウキャスト」を使って、スマホやパソコンで竜巻が発生しそうな地域を確認することもできます。
では、実際に竜巻が来そうな場合、どうやって身を守ればいいのでしょう。気象庁の「竜巻から身を守る~竜巻注意情報~」というパンフレットから一部を抜粋します。

  • ●屋内にいる場合
  • 窓やカーテンを閉める。
  • 窓から離れる。大きなガラス窓の下や周囲は大変危険。
  • 家の1階の窓のない部屋に移動する。
  • 丈夫な机やテーブルの下に入るなど、身を小さくして頭を守る。
  • ●屋外にいる場合
  • 頑丈な構造物の物陰に入って身を小さくする。
  • シャッターを閉める。
  • 物置や車庫・プレハブ(仮設建築物)の中は危険。
  • 電柱や太い樹木であっても倒壊することがあり、危険。

竜巻はめったに出会うことのない稀な自然現象ですが、不用意に遭遇すると命を落とす危険があります。地球温暖化により、今後は日本でもさらに強大な竜巻の発生が予想されているとか。事前に情報を集め、家族と共有して、万一のときに備えておくといいかもしれません。

※参考資料:気象庁|竜巻注意情報・竜巻発生確度ナウキャストの解説
※参考資料:気象庁|リーフレット「竜巻から身を守る~竜巻注意情報~」

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