プラネット・ハンティング
「スーパーアース」という星があるのをご存じですか。太陽系以外の恒星系にある、地球の数倍から10倍ぐらいまでの質量を持つ岩石でできた惑星をこう呼ぶそうです。21世紀に入って宇宙観測の技術が進歩し、地球に似た組成を持つ系外惑星が次々と発見されはじめました。宇宙のはるか遠方にあるこれらの惑星をどうやって見つけるのか、また、何のために探すのか。今回は、最先端をゆく惑星発見の技術にスポットを当ててみました。
地球に似た星を探す
この広大な宇宙に、地球に似た星はあるのでしょうか。それとも地球は唯一の奇跡的な存在で、宇宙は荒涼とした無機物の砂漠なのでしょうか。「地球外生命を見つけること」、これは人類が長年胸に抱いてきた夢でした。そしてその夢が科学者たちを突き動かし、地球に似た惑星探査へと駆りたててきたのです。
ところが、ガリレオ・ガリレイの観測以降、天文学が驚異的な進歩を遂げてきたにも関わらず、太陽系外にある惑星の発見は困難を極めました。なぜなら、それがとてつもなく遠い距離にあるからです。たとえば太陽に一番近い恒星ですら、4.3光年ほどの距離があります。「㎞」で表すと、およそ「40,000,000,000,000km」。太陽系外にある地球に似た星を見つけるのは、東京から約1000km離れた鹿児島にある砂粒大の物体を探すのと同じくらい難しいことなのです。この到底不可能と思われる難題に、科学者たちは果敢に挑み続けてきました。そして、観測技術の進歩もあり、1995年以降、太陽系外にある惑星の存在が確認されはじめたのです。その観測方法のひとつが、「ドップラー法」と呼ばれるものでした。
見えないものを見る技術
皆さんは「ドップラー効果」というものをご存じでしょうか。救急車のピーポー音が、近づいてくるときは高く聞こえ、遠ざかっていくときは低く聞こえるあの現象です。オーストリアの物理学者クリスチャン・ドップラーが発見したので「ドップラー効果」と呼ばれています。音の正体は「音波」という波です。音の発信源が近づいてくるときは「音波」が圧縮されて周波数(音程)が高くなり、遠ざかるときは間延びして低くなります。実は、光も音と同じ波なので、移動する物体から出る光にはドップラー効果が働きます。近づいてくる物体の光は青っぽく見え、遠ざかる物体は赤っぽく見えるのです。この「ドップラー効果」を応用して、科学者たちは宇宙の彼方にある星々を観測しはじめました。
惑星のダンスを見つける
人と人が両手をつないで回りあうように、「恒星」と「惑星」も重力で手をつなぎ、お互いの周りを回りあっています。一般的に恒星の方がはるかに重いので、回っているのは惑星だけのように見えますが、でも実際は中心にある恒星も惑星の重力に引っ張られ、ほんの僅かに円を描いて動いています。このため恒星から出る光には、ドップラー効果が働きます。地球から見て近づく方向に動くときは「青っぽく」、遠ざかる方向に動くときは「赤っぽく」変化するのです。つまり、「一定の周期でわずかに色合いが変化している恒星」を見つければ、その星は「惑星」を伴っていると考えられるのです。この「ドップラー法」の観測によって、1995年、世界で初めてスイスのチームが地球から50光年先にある惑星を発見しました。
惑星の「食」を見つける
もう一つ、「トランジット法」という別の探査方法も考案されました。通常、惑星は恒星の周りを、円軌道を描いて回っています。その軌道面が地球から見て水平の場合、惑星は一周するごとに恒星の前を通り過ぎることになります。そのとき惑星が恒星の光を遮るため、恒星の明るさが少しだけ落ちるのです。このほんの僅かな「減光」を捉えて惑星の存在を確かめるのです。
この「トランジット法」には「ドップラー法」にはない利点があります。恒星の「減光」を正確に計ることで、通過した惑星の「大きさ=体積」を知ることができるのです。一方、「ドップラー法」は重力による揺れを観測するので、惑星の「重さ=質量」が分かります。つまり、「ドップラー法」と「トランジット法」の両方で観測すれば、目に見えない惑星の「重さ」と「体積」が分かり、その星の「密度」を知ることができるのです。「密度」が分かれば、その星が地球のような岩石でできているのか、木星のようなガスでできているのかが分かります。科学者たちはこのようにして、持てる叡智のすべてを駆使して、遠い星の存在を突きとめてきたのです。
はじめのうちは観測精度の問題があり、木星並みの巨大ガス惑星しか見つかりませんでした。しかし、21世紀に入って、大口径望遠鏡や宇宙望遠鏡の投入、データ検出技術の向上などもあって、より地球に近い大きさの「スーパーアース」が次々と発見されてきています。「地球そっくりの惑星はあるのか」「そこに生命は存在するのか」。いま、宇宙という広大な競技場で、熾烈な"プラネット・ハンティング"のレースが繰り広げられているのです。
いつの日か人類の運命を一変させるような大発見が生まれることを期待して、このトップサイエンティストたちの華麗な戦いを観戦するのも楽しいかもしれません。